ベースボール・ラプソディ No.63
どれくらいの時間をふさぎこんでいたのか、何時しか雪はやみ、気づくと哲哉が傍らに立っていた。
「ようやく雪が降り止んんだな」
綾乃が立ち去った方向に視線を向ける哲哉が、世間話でもするように話しかけてきた。
「……お前も、俺に野球をやれって言いにきたのか?」
虚ろな眼の八雲に、哲哉は小さくかぶりをふった。
「俺はただ、小次郎の言葉を伝えにきただけだ」
顔を上げた八雲に、哲哉は静かに言葉をつづけた。
「全国優勝した後、小次郎が俺に言った言葉だ。
どんなに強いチームと対戦しても、記憶の中のお前を超える投手とは出会えなかった、打ち取られてわくわくするような投手はいなかった、ってな。
小次郎はあの時に、お前と正面切って向き合うことを決意したんだろうな」
哲哉が伝えた言葉には、小次郎の万感の想いが詰まっていた。
その想いを知った八雲に去来するのは、後悔と自責の念であった。
その八雲の視界に、ボールをさしだす小さな手がはいりこんできた。
それは、幼き日の自分自身の姿だった。
『……お前も、野球をやれって言うのかよ』
無邪気に笑って消えていく過去の自分に、八雲の中でその頃の記憶が甦る。
ただボールを手にするだけで楽しかった、純粋な想いが。
まどろみから目覚めるように、意識がはっきりとしていく八雲。
その八雲に、今度は哲哉が手をさしだした。
「小次郎はお前がマウンドに戻ってくる事を、何よりも望んでいた。
だが、どうするかはお前の自由だ。
…どうだ、もし野球をやるのなら、俺とバッテリーを組む気はないか?」
悲しみを噛み殺し、微笑む哲哉。
八雲はその手をとり、そして立ち上がった。
その瞬間から、彼の野球人生のセカンドシーズンが始まったのである。
「ようやく雪が降り止んんだな」
綾乃が立ち去った方向に視線を向ける哲哉が、世間話でもするように話しかけてきた。
「……お前も、俺に野球をやれって言いにきたのか?」
虚ろな眼の八雲に、哲哉は小さくかぶりをふった。
「俺はただ、小次郎の言葉を伝えにきただけだ」
顔を上げた八雲に、哲哉は静かに言葉をつづけた。
「全国優勝した後、小次郎が俺に言った言葉だ。
どんなに強いチームと対戦しても、記憶の中のお前を超える投手とは出会えなかった、打ち取られてわくわくするような投手はいなかった、ってな。
小次郎はあの時に、お前と正面切って向き合うことを決意したんだろうな」
哲哉が伝えた言葉には、小次郎の万感の想いが詰まっていた。
その想いを知った八雲に去来するのは、後悔と自責の念であった。
その八雲の視界に、ボールをさしだす小さな手がはいりこんできた。
それは、幼き日の自分自身の姿だった。
『……お前も、野球をやれって言うのかよ』
無邪気に笑って消えていく過去の自分に、八雲の中でその頃の記憶が甦る。
ただボールを手にするだけで楽しかった、純粋な想いが。
まどろみから目覚めるように、意識がはっきりとしていく八雲。
その八雲に、今度は哲哉が手をさしだした。
「小次郎はお前がマウンドに戻ってくる事を、何よりも望んでいた。
だが、どうするかはお前の自由だ。
…どうだ、もし野球をやるのなら、俺とバッテリーを組む気はないか?」
悲しみを噛み殺し、微笑む哲哉。
八雲はその手をとり、そして立ち上がった。
その瞬間から、彼の野球人生のセカンドシーズンが始まったのである。
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