髄まで愛した一生#2
狭い階段を一段降りる度に、ふわっと、心臓に巻き付いてきた。
それはやがて、声となって現れる。
『ここは怪しい。引き返せ』
一瞬の好奇心は、いつものように、自分自身で抑えつけようとしていた。
しかし、そんな思いとは裏腹に、その足は歩みを止める事はなかった。
普段ならとっくに引き返していたろう。いや、この階段を降りる事さえしていなかったろう。
適度に回ったアルコールが、自制心を麻痺させていたのか。それとも好奇心か。
妙に、あの看板の言葉が頭にひっかかっていた。
『あなたは本当の愛に出会った事がないでしょう。あなただけの本当の愛の形を教えます。』
まだ会ってもいない人に対して、ずいぶん上から物を言うじゃないか。
おそらく下らない占いか何かだろう。適当な事を言って、もっともらしく一万くらい持っていく。どこにでもある、ゲスな人間商売だ。
それでも妙に惹きつけられたのは、なんとなく言葉の切り口が斬新であって事と、それを目にした自分自身に、自覚があったからかもしれない。
いつの間にか扉の前に立っていた。
『者楽遊』
納得する答えがその先にあるのか?おそらく無いだろう。俺はただ、馬鹿にしたいだけなのかもしれない。おもいっきり。
『愛の形か。教えてください。』
一呼吸ついて、扉を開けた。
感想
- 42335:タイトルが好きです[2013-08-29]