Near by you / Epi.3
Episode.3
「フンフンフ〜ン♪」
鼻歌混じりに聞こえてくる
生活音
「今日も一日頑張らなきゃ」
ドア越しでも分かる
懐かしい、愛しい声
「…それにしても
優がいないとこんなに
広いのねぇ、この家」
ガチャ…
僕は、部屋の扉を開けて
居間に出た
真っ先に
視界に入るキッチンには
ふわふわの髪を
二つ結びで軽く束ねた
童顔で小柄な女性がいた
(…千奈)
僕は思わず歩み寄る
彼女はこちらを振り返った
「ん?
何で優の部屋のドア
勝手に開いたの?」
不思議そうな顔をしながら
ドアに近寄り
僕の体をするりとすり抜けた
(…ああ、そうか
千奈には僕が……)
千奈はドアを閉めて
首を傾げながらキッチンに戻り
洗い物を再開した
僕は胸が
締め付けられる思いだった
君の姿が、声が
懐かしくて
悲しくて
苦しくて
愛しい
(…千奈……
君に、会いに来たよ…)
僕の頬を
一粒の涙が伝っていった
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