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蝋燭の火?

[531]  けん  2006-09-21投稿
 八月九日。
 五郎は朝から工場に顔を出し、予定通りに辞表を提出する。
こうすることによって迷惑をこうむる人間がいるのかも知れない。いや、きっといるのだろう。
 しかし、五郎は思う。
 自分がこの世から消え去ることによって迷惑をこうむるような人間は、きっといないはずだ、と。
 その直後に、毅の顔が頭をよぎり、五郎は苦笑いをする。
 あの出来事以来、どうも自分の中に脆弱な風が吹いているらしい。まるで覇気がない。

 これではいかん――自分に喝を入れてみる。自分に残された時間は少ないのだ、と。
 そうして五郎は、あらかじめ決めておいた予定を、頭の中でしっかりと繰り返す。

 ――よし、行こか。

 五郎は少し元気を取り戻し、工場を後にした。

--*--*--*--*--*--

 ヘップファイブ屋上では、今日も観覧車がゆっくりと回っている。
 五郎は梅田に来ていた。平日の昼間とはいえ、この辺りには人が多い。

 ――もし、自分の命があと3日だけだと知ったら、この目の前の人々は、一体どうするのだろうか。
 そういったことを考えていると、五郎はふと気になりだした。自分がこれからやろうとしていることは、果たして本当に正しいことなのだろうか、と。
自信がないわけではない。ただ、本来その自信をとりまくはずの根拠や、高揚感が、すっかり抜け落ちてしまっているのだ。
しかしそれでも、五郎の決意は固かった。それは確かな決意だった。
 夢の中で、あの子供を初めて目の当たりにした時のような感覚。それと似た宿命的な光が、同じく宿っていた。

 人の波をかきわけ、五郎はある店へと入る。

 そこは高級スーツの専門店だった。
 五郎は店内を手短に物色し、アルマーニの一式を買い揃えた。
それから携帯を取り出し、大阪駅へ電話をかけ、レンタカーの予約を取り次いでもらう。
 そして五郎は、ゆっくりと駅に向かって歩き出す。

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