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秘密が、花園

[943] グルルル 2014-09-03投稿
 今ではかび臭いだけの理科実験室の中に、密やかな楽園があった。
 この世界の、片隅に。
 夕刻が終わる前の、ひとときに。
 秋の叙情に紛れてしまった思い出があった。
 永遠とも呼べる刹那があった。
 ……。
 私と貴女は、フラスコの奥底に閉じ込められてしまったよう。
 そう言う私を、貴女は鼻で冷たく笑う。
 少し、綻んだ貴女の吐息は、ほのかにメンソ\ールの香り。
 その、目も眩むような清洌さにむしろ、罪悪を覚えた私は彼女を見つめる。
 横を向いた貴女の面差しを、消え去りゆく夏の面影をまとう儚なげ表\情を、私は覗きみる。
 そんな貴女は分からないのだろう、と私は思う。
 私のことなど。
 ここに残される哀れな被害者のことなど。
 何もかもを振り切って、綺麗な身のままで、どかか遠くへ行ってしまう貴女。 別れなど、何の意味もないと、うそぶく貴女。
 私には、それが、酷く、たまらなく……。
 ……。
 目覚めれば、冬。
 冷たいリノリウムの反射光で、我に返った私は一人で立ち尽くしていた。
 あの楽園がかつてあった場所の、扉の前に。
 でも、主が失なわれたこの場所が私に開かれることはもう、ない。

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