流狼-時の彷徨い人-No.84
己の命を盾として二人を救ったことに、一片の後悔もみせない半次郎。
その姿に、段蔵は言葉をうしなっていた 。
そして半次郎は最後の役目をはたすべく、偽りのないその胸中を段蔵に語りはじめる。
「………ハクの名を耳にした時の、…加藤殿の目が気になっていました」
淡々と語りはじめた半次郎は、背の高い木々達の間からのぞく、僅かな空に目をむけた。
その蒼さは限りなく清んで見え、何故か無性に懐かしくおもえた。
「……ノア殿がその名を口にした瞬間、…貴方はひどく空虚で、……全ての感情を否定したような目をしていた。
………おそらく私も、…武田晴信の名を耳にする都度、……同じ目をしていたのだろうと気付いたとき、………貴方とハクの関係が理解できた気がしました。」
蒼天の色に染まった瞳を段蔵にむける半次郎。
もはや段蔵に、半次郎の言葉をさえぎる術はなかった。
「………もしもハクという人物が、私にとっての武田晴信のような存在ならば、………貴方にはその過ちをただす責任があるのではないですか?」
段蔵の裾を強く握りしめ、必死に訴えかける半次郎。
自分には武田晴信の過ちを正すことができなかった。
その忸怩たる思いともに朽ち果てようとしている自分の轍を、段蔵には踏ませたくなかったのだ。
その想いが段蔵につたわると、彼の身体に満ちていた戦意は見る影もなく消え失せていた。
大量の吐血とともに咳き込む半次郎。
彼に残された時間は、もう幾ばくもなかった。
「………貴方をこえてみせると言いましたが、……それに必要な時間が、………私には与えられてはいなかったようです。
……約束を反故にする不義を、………お許しください」
「もう喋るな。
諦めさえしなければ、命を拾うことだってある」
半次郎に左手をかざす段蔵。
その手が、白金の輝きを放ちはじめた。
その姿に、段蔵は言葉をうしなっていた 。
そして半次郎は最後の役目をはたすべく、偽りのないその胸中を段蔵に語りはじめる。
「………ハクの名を耳にした時の、…加藤殿の目が気になっていました」
淡々と語りはじめた半次郎は、背の高い木々達の間からのぞく、僅かな空に目をむけた。
その蒼さは限りなく清んで見え、何故か無性に懐かしくおもえた。
「……ノア殿がその名を口にした瞬間、…貴方はひどく空虚で、……全ての感情を否定したような目をしていた。
………おそらく私も、…武田晴信の名を耳にする都度、……同じ目をしていたのだろうと気付いたとき、………貴方とハクの関係が理解できた気がしました。」
蒼天の色に染まった瞳を段蔵にむける半次郎。
もはや段蔵に、半次郎の言葉をさえぎる術はなかった。
「………もしもハクという人物が、私にとっての武田晴信のような存在ならば、………貴方にはその過ちをただす責任があるのではないですか?」
段蔵の裾を強く握りしめ、必死に訴えかける半次郎。
自分には武田晴信の過ちを正すことができなかった。
その忸怩たる思いともに朽ち果てようとしている自分の轍を、段蔵には踏ませたくなかったのだ。
その想いが段蔵につたわると、彼の身体に満ちていた戦意は見る影もなく消え失せていた。
大量の吐血とともに咳き込む半次郎。
彼に残された時間は、もう幾ばくもなかった。
「………貴方をこえてみせると言いましたが、……それに必要な時間が、………私には与えられてはいなかったようです。
……約束を反故にする不義を、………お許しください」
「もう喋るな。
諦めさえしなければ、命を拾うことだってある」
半次郎に左手をかざす段蔵。
その手が、白金の輝きを放ちはじめた。
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