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流狼-時の彷徨い人-No.84

[667] 水無月密 2014-10-25投稿
 己の命を盾として二人を救ったことに、一片の後悔もみせない半次郎。

 その姿に、段蔵は言葉をうしなっていた 。


 そして半次郎は最後の役目をはたすべく、偽りのないその胸中を段蔵に語りはじめる。


「………ハクの名を耳にした時の、…加藤殿の目が気になっていました」

 淡々と語りはじめた半次郎は、背の高い木々達の間からのぞく、僅かな空に目をむけた。

 その蒼さは限りなく清んで見え、何故か無性に懐かしくおもえた。


「……ノア殿がその名を口にした瞬間、…貴方はひどく空虚で、……全ての感情を否定したような目をしていた。
 ………おそらく私も、…武田晴信の名を耳にする都度、……同じ目をしていたのだろうと気付いたとき、………貴方とハクの関係が理解できた気がしました。」


 蒼天の色に染まった瞳を段蔵にむける半次郎。

 もはや段蔵に、半次郎の言葉をさえぎる術はなかった。


「………もしもハクという人物が、私にとっての武田晴信のような存在ならば、………貴方にはその過ちをただす責任があるのではないですか?」


 段蔵の裾を強く握りしめ、必死に訴えかける半次郎。

 自分には武田晴信の過ちを正すことができなかった。

 その忸怩たる思いともに朽ち果てようとしている自分の轍を、段蔵には踏ませたくなかったのだ。

 その想いが段蔵につたわると、彼の身体に満ちていた戦意は見る影もなく消え失せていた。



 大量の吐血とともに咳き込む半次郎。

 彼に残された時間は、もう幾ばくもなかった。


「………貴方をこえてみせると言いましたが、……それに必要な時間が、………私には与えられてはいなかったようです。
 ……約束を反故にする不義を、………お許しください」

「もう喋るな。
 諦めさえしなければ、命を拾うことだってある」


 半次郎に左手をかざす段蔵。

 その手が、白金の輝きを放ちはじめた。

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