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セピア色(カラー):ラスト?

[791] 優風 2014-11-12投稿
・美香がロンドンから帰国する前日、僕はまた休日出勤をして朝から会社でパソコンと向かい合っていた。以前よりプランがあったA社との企画が本社で実行となった事からそのソフトの一部を担当となっていたが、その他の作業も残っていて、そっちを優先した事やプライベートでの生活問題ともいうべき事が多すぎて、今こうして時間に追われながら作業にとりかかっているのだが……。
・一昨日の晩、ロンドンにいる美香から連絡があった。電話をかけてきた時の美香の口調はいつもと違って早口だった。ロンドンへ来ていたせいだろう。少し興奮しているようだった。電話の向こうで話す美香はなんだか無邪気で可憐な少女に戻ったような、そんな感じさえ思わせた。ランチをタワーブリッジで食べて、少ししてからかけてきたらしいのだが“霧の都“と呼ばれるロンドンだが、その日は天候にも恵まれてロンドンの街を見渡せて食事ができた事も良かったと言っていた。それから以前に比べて、食事の味も随分美味しかったらしい。観光スポット巡りやショッピングの話しから始まり、コッツウォルズ地方に行った時は優雅な自然の雰囲気に包まれて、前回もそうだったがやはり神秘性を覚えたそうだ。その後もロンドンでの美香の旅行話しは続いた。今回はミュージカルも見に行ったらしい。ミュージカルで見た“オペラ座の怪人”で怪人のファントムがヒロインの少女に見守られながら息を引き取るシーンは目頭が熱くなり、ひどく胸を締め付けられたらしい。電話をしてきた時は少し早口だった美香もミュージカルの話しをする時は落ち着いていていつもの口調に戻っていた。電話を切る前に、
「帰って来たら食事に行こう」
僕がそう言うと
「うん」
小さな声でそう返答してきてから、
「ちゃんと、お土産買って帰るから楽しみにしててね」と、声のトーンを戻して少しいたずらっぽく聞こえるように言った。
・時刻を見ると13時だった。朝も簡単に済ましてきていたからけっこうお腹はすいていた。パソコンの電源をオフにしてから、会社のすぐ近くにある定食屋へ足を運んだ。注文を取りに来た女性の店員にメニューを頼んだ後、お冷やを一口飲んでから雑誌が置いてある棚へと向かった。週刊誌を手にしてから自分の食席へ戻ろうとした次の瞬間、TVから聞こえてきたアナウンスに僕は自分の耳を疑った。すぐ様TVの方に目を向けるとTVの画面には飛行場で一機の飛行機が燃え盛る場面が映し出されていた。そして、その状況を日本人の男性リポーターが難しい顔をして説明していた。
「日本の成田国際空港へ向かう予定だった15:33ヒースロー発“ボーイング748”はなぜか離陸せず、滑走路を離陸予定地からオーバーランをしてしまい、少しスピードが制御された際、方向転換をしようとして機体ごと横転してしまった模様。えー、乗務員を含め、乗客……」
日本人の男性リポーターが説明するTVの画面を見ながら僕は唖然とその場に立ち尽くしていた。画面の中で炎に包まれている機体には美香が乗っていたのだ……。




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