哀しみの果てに(最終話)
目を覚ますと
小田はテーブルの上に置き手紙と部屋の鍵をおいて部屋から出ていっていた
手紙には
鍵を閉めたら
ポストに入れておいてください
と書いてあった
僕は結局
小田とは
僕からは一言も
言葉を発しなかったことに気がついた
あたりは
いつの間にか
夕暮れ時になっていた
僕は仏壇の
幸さんと由美子ちゃんの写真を眺めた
幸さんと由美子ちゃんを亡くした後の僕の人生は大切な人を失い続けた人生だった
雄太
純
教子…
そして上田
色んな思い出が
頭をよぎったが
僕はずっと
見逃し続けた
この場所に来たことに満足することにした
幸さん
由美子ちゃん
遅くなってごめんね
やっと
この場所に来たよ
幸さん
多分僕は幸さんと
同じ位の年に
なったよ
由美子ちゃん
僕にとっては
由美子ちゃんは
初恋の大好きな人だよ
二人に
心の中で
話しかけてた
僕は
気のせいかも
知れないが
ふと
部屋に
幸さんと由美子ちゃんが居る感覚を感じた
目を閉じて
二人の暖かさを
懐かしんだ
僕は暖かさに
包まれ
不思議な満足感に満たされ
部屋を出た
部屋を出ると
階段の所に
小田(先生)と
同級生らしき
男女が10人位いた
僕は
幸さんと
由美子ちゃんに
後押しされるように優しい気持ちで
口を開いた
「小田先生…皆…今まで由美子ちゃんの側にいてくれて…ありがとう」
皆
苦しんでいたんだ…
僕は
ただ事実を
受け入れられずに
この事件から
背を向けてきた
しかし
加害者側の人間とはいえ
小田先生や一部のクラスメートは
この場所を守ってきたんだ…
僕はまだ怒りは捨て去れないが
薄れゆく気持ちが芽生えてきた
哀しみ
そう
事件に対する
自分の無力さに対する哀しみは
ことあるごとに
思い出すだろう
僕は
溢れてきた涙を
拭おうともせずに
小田先生の肩を叩き
階段を降り
振り返り
皆に深く頭を下げた
「ありがとうな…また来るわ」
そう言った時に
頭に暖かいものを感じた
幸さんの懐かしい手のような気がした
「宇野君(僕)偉いよ」
そして
足元から声が
聞こえた気がした
「さすが私の初恋の人!また来てね」
僕は
もう一度階段を
見上げた
そこには
誰もいなかった
このアパートの階段はここしかない
幻?
それとも
皆が身を潜めたのか?
僕は階段を登って
皆がいるかを確認するのを控えた
この(皆が幻だったという)ファンタジーをファンタジーのままにしておきたかった
哀しみの果てに
人生の終焉を迎えるまでこの事件に対する哀しみはなくなることはないだろう
しかし
無力な自分と向き合う勇気をここ(公団アパート)で幸さんと由美子ちゃんに教えてもらった気がした
幸さん
由美子ちゃん
それからも
見守ってくれな!
という自分らしく
自分勝手な気持ちでこの事件に気持ちの一区切りをつけた
合掌
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