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逃亡記8

[708] どろぼう猫 2015-05-17投稿
ゲルダは清水を手で受け、その水で顔を洗った。汗とぬめりを腰に結わい付けたぼろ布でぬぐい、さっぱりした気分になる。

森中の鳥たちが一斉に羽ばたき宙に舞ったように思えた。

いまや巨岩が音叉のように振動を発していた。

それにつれて、ゲルダが背嚢におさめた、先程の青い宝石から、しずかな歌声のような物音が、聞こえてきた。

いつのまにか目の前に、髪の長い女が立っていた。

女の髪は青い。

見覚えのあるその女とどこで出会っていたか、ゲルダは必死に思い出そうとした。

夢の中の女だ!

そう気づいたとき、背嚢の中の青い宝石が、きーんと冴えた音を立て、何か浄められたエネルギーを放つのが感じられた。

それに呼応して、巨岩からも暖かな波動がゲルダに向かって押し寄せてくる。

女はゲルダに向かって言った。

「うつしよであなたに会うことになるとは。戦士ゲルダよ、宿命に向かってどこまでもお逃げなさい。みんながあなたを狙ってくるわ。あなたは欲望を素直にむき出したから。王国の至宝は欲望の象徴、そして魔神から掠め取った青い宝石はこのわたしの映し身。

多くの者の怒りを買い、それでも生きたいと願い、あくまで己を貫くのなら、決して後ろを振り向かぬことです。

安住の地めざして、駆けよ、ゲルダ!」

ゲルダはうつむいてその言葉を聞いていた。彼は言った。

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