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恋の涙?

[344]  MINK  2006-09-24投稿
思い出はたくさんあったはずだった。
なのに、思い出せない。
あんなに楽しかった時間なのに一番楽しかった時間が思い出せない。
誰に恋をしていたのか、分からなくなった。
私はベランダに出て、煙草を吸った。
彼と付き合ってから、禁煙していた煙草だった。
久々の煙草は美味しいと言うよりは、喉に沁みた。
不意に懐かしい着信音が鳴っていた。
私は、ゆっくりと携帯電話を手にとって名前を見た。

「早田 武」

どれくらい前の男だろう。
私は、なり続けている着信音を止めた。
「もしもし…」
「久しぶり」
もう声も顔も覚えていない。
私も薄情な女だ。
「久しぶり」
「急にごめん。ちょっと用事があって…少し会えないかな」
「会えない」
「君の事だからそう言うとは思っていたよ」そう言って、優しく困ったように笑った。
「私、昔の男に会う程暇じゃないから」そう言って、電話を切ろうとした時、彼が言った。
「君にとってメリットのあることだから」
電話を切り掛けた手を止めて、私は聞きなおした。
「メリットって?」私は自分がとことん嫌な女だと思った。
「それは会ってから話す。悪い話じゃない」
「そう。で?いつ会うの?」
「今日とかは時間ある?」
「何とかする」
そう言って電話を切り、それから彼にメールをした。

今日、八時に駅前の「ソート」ってカフェにいる。

彼からは「了解」とだけきた。
私は、彼の事が思い出せないでいた。

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