セピア色(カラー)10
・同窓会当日、僕は主催者の一人として原田達と四人で行くはずだったが舞からの連絡を受けて一人遅れて行く事になった。
「遅いぞ、貴士」
僕が行くと既に原田はできあがっていた。普段から地声で大きな声が余計に耳に響いた。案の定、お約束の駆けつけ一杯をやらされた。遅れた時はいつもこうだ。覚悟はしていたがやはりお酒の弱い僕にとっては例えビアカンに入ったビールの一気飲みでさえも正直、けっこうきつかった。おかげで胸から上が暑くなった。
・三十名以上集まっている事もあり、アルコールが混じった二酸化炭素が飽和された部屋の中はとても暑かった。
「来るの遅かったね」
斜め前に座っている佐藤千春が声を掛けてきた。佑人と一緒に卒業記念写真をとった娘だ。千春に問われ僕が口を開こうとすると
「年下の彼女とデートしてたから遅れたんだよな」
僕に変わって原田が勝手に説明する。
「へぇ、彼女いるんだ。どんな娘?」
「気さくな娘だよ。ちょっと甘えん坊かな。千春は!?」
「私、来年の春に結婚するんだ」
「えっ、そうなの。もしかしてできちゃった婚とか?」原田が食いつく。
「ううん、そんなんじゃなくて普通に彼にプロポーズされたから」
「そうなんだ。おめでとう」隣に座っていた佑人が口を開く。
「てかさ、千春ガキの頃、佑人の事好きだったろ」
「うん、好きだった。今も好き。もちろん友達としてだけど」
けろりとした表情で千春が答える。佑人は照れ隠しの為か慌てた様子でビールを口にする。
「それから後さ、こいつが誰と写真をとったか知らない。どうしても口を割らないんだよ」
「さあ、誰だろ!?貴士君誰と写したの?」
「さあ、誰でしょう」
とごまかしてグラスの中のビールを飲み干す。どうやら僕が卒業記念写真を誰と写したのか千春も興味を持ったようだ。
「いい加減白状しろよ」
僕の隣に座っていた和幸ひじでわき腹をつっついてくる。その後で原田が立ち上がり、
「はぁーい。皆、注目。二次会への参加者を聞く前に女子に聞きたいんだけどさ。相沢貴士と卒業記念写真をとった娘、この中にいる?」
原田の言葉に少しの沈黙の後、ざわつき始めたが誰も名乗り出なかった。
「あれ、照れてるのかなぁ。それとも今日来てない人かな?」
首をかしげながら疑問に思う原田を後にして佑人が二次会参加者を集い始めた。・翌日は午後の三時に目が覚めた。一次会に来てた半分程の人間が二次会のカラオケに流れ、皆で長時間熱唱したあげく三次会でばーラウンジまで行き、結局帰宅したのが午前四時を過ぎていた。おかげで二日酔いになってひどい頭痛がする。
・携帯電話を見ると、舞からメールが届いていた。内容は、“昨日はわがままを言って付き合わせてごめんなさい”という謝罪を交えた文章だった。それからすぐに僕は“二日酔いになった”と返信した。
・夕方、仕事を終えた舞が僕の部屋を訪れた。
「大丈夫?」
僕を見て心配そうな顔をして伺う。
「あまり大丈夫じゃない。ひどく頭が痛いんだ」
しかめっ面で僕は答えた。「食欲はある?スーパーでお味噌汁の材料買ってきたんだけど作ろうか」
「うん……。」
目を閉じたまま力なく答えた。それを聞いて舞は「キッチン借りるね」と言って作業を始めた。
・僕は冬季休暇中だったが舞は今日仕事だった。でも、今日から希望休が二日間取れたおかげで一緒に新年を迎える事ができるようだ。
・夕食後は一緒に紅白歌合戦を見た。舞が作ってくれた味噌汁のおかげで大分頭痛はましになった。舞は自分の好きなアーティストが出演すると一緒に歌を口ずさんだ。そんな姿を見て僕は後ろから抱きしめた。そして、
「ねぇ、知ってる?その年の最後の賭けに成功すれば次の年はたくさんいい事があるらしいよ」
「本当!?」
「うん、本当」
「へぇーそうなんだ。でも貴士君、賭け事とかギャンブルはしないんじゃなかったけ」
舞が悪戯な笑みを浮かべてそう言った。
「ギャンブルには興味ないけどジンクスには興味があるんだ」
「フフフ。ジンクスって暗示には弱いんだね。」
静かに笑った後でそう言った舞は
「じゃ、私白組が勝つ方にかける!貴士君は?どっちが勝つと思う?」
「んー……俺も白!ってこれじゃ賭けの勝負にならないね」
「それじゃ二人とも白に賭けに事にするってのはどう?」
「分かった。そうしよう」
「いい事が一杯たくさんあるといいね」
「うん」
そう言って二人で顔を見合わせて笑ってから僕は舞の唇にそっと自分の唇を重ねた。口づけながらふっとあの時汽車で見た女性の顔が脳裡をよぎった。彼女こそが僕の卒業記念写真の相手だった。
「遅いぞ、貴士」
僕が行くと既に原田はできあがっていた。普段から地声で大きな声が余計に耳に響いた。案の定、お約束の駆けつけ一杯をやらされた。遅れた時はいつもこうだ。覚悟はしていたがやはりお酒の弱い僕にとっては例えビアカンに入ったビールの一気飲みでさえも正直、けっこうきつかった。おかげで胸から上が暑くなった。
・三十名以上集まっている事もあり、アルコールが混じった二酸化炭素が飽和された部屋の中はとても暑かった。
「来るの遅かったね」
斜め前に座っている佐藤千春が声を掛けてきた。佑人と一緒に卒業記念写真をとった娘だ。千春に問われ僕が口を開こうとすると
「年下の彼女とデートしてたから遅れたんだよな」
僕に変わって原田が勝手に説明する。
「へぇ、彼女いるんだ。どんな娘?」
「気さくな娘だよ。ちょっと甘えん坊かな。千春は!?」
「私、来年の春に結婚するんだ」
「えっ、そうなの。もしかしてできちゃった婚とか?」原田が食いつく。
「ううん、そんなんじゃなくて普通に彼にプロポーズされたから」
「そうなんだ。おめでとう」隣に座っていた佑人が口を開く。
「てかさ、千春ガキの頃、佑人の事好きだったろ」
「うん、好きだった。今も好き。もちろん友達としてだけど」
けろりとした表情で千春が答える。佑人は照れ隠しの為か慌てた様子でビールを口にする。
「それから後さ、こいつが誰と写真をとったか知らない。どうしても口を割らないんだよ」
「さあ、誰だろ!?貴士君誰と写したの?」
「さあ、誰でしょう」
とごまかしてグラスの中のビールを飲み干す。どうやら僕が卒業記念写真を誰と写したのか千春も興味を持ったようだ。
「いい加減白状しろよ」
僕の隣に座っていた和幸ひじでわき腹をつっついてくる。その後で原田が立ち上がり、
「はぁーい。皆、注目。二次会への参加者を聞く前に女子に聞きたいんだけどさ。相沢貴士と卒業記念写真をとった娘、この中にいる?」
原田の言葉に少しの沈黙の後、ざわつき始めたが誰も名乗り出なかった。
「あれ、照れてるのかなぁ。それとも今日来てない人かな?」
首をかしげながら疑問に思う原田を後にして佑人が二次会参加者を集い始めた。・翌日は午後の三時に目が覚めた。一次会に来てた半分程の人間が二次会のカラオケに流れ、皆で長時間熱唱したあげく三次会でばーラウンジまで行き、結局帰宅したのが午前四時を過ぎていた。おかげで二日酔いになってひどい頭痛がする。
・携帯電話を見ると、舞からメールが届いていた。内容は、“昨日はわがままを言って付き合わせてごめんなさい”という謝罪を交えた文章だった。それからすぐに僕は“二日酔いになった”と返信した。
・夕方、仕事を終えた舞が僕の部屋を訪れた。
「大丈夫?」
僕を見て心配そうな顔をして伺う。
「あまり大丈夫じゃない。ひどく頭が痛いんだ」
しかめっ面で僕は答えた。「食欲はある?スーパーでお味噌汁の材料買ってきたんだけど作ろうか」
「うん……。」
目を閉じたまま力なく答えた。それを聞いて舞は「キッチン借りるね」と言って作業を始めた。
・僕は冬季休暇中だったが舞は今日仕事だった。でも、今日から希望休が二日間取れたおかげで一緒に新年を迎える事ができるようだ。
・夕食後は一緒に紅白歌合戦を見た。舞が作ってくれた味噌汁のおかげで大分頭痛はましになった。舞は自分の好きなアーティストが出演すると一緒に歌を口ずさんだ。そんな姿を見て僕は後ろから抱きしめた。そして、
「ねぇ、知ってる?その年の最後の賭けに成功すれば次の年はたくさんいい事があるらしいよ」
「本当!?」
「うん、本当」
「へぇーそうなんだ。でも貴士君、賭け事とかギャンブルはしないんじゃなかったけ」
舞が悪戯な笑みを浮かべてそう言った。
「ギャンブルには興味ないけどジンクスには興味があるんだ」
「フフフ。ジンクスって暗示には弱いんだね。」
静かに笑った後でそう言った舞は
「じゃ、私白組が勝つ方にかける!貴士君は?どっちが勝つと思う?」
「んー……俺も白!ってこれじゃ賭けの勝負にならないね」
「それじゃ二人とも白に賭けに事にするってのはどう?」
「分かった。そうしよう」
「いい事が一杯たくさんあるといいね」
「うん」
そう言って二人で顔を見合わせて笑ってから僕は舞の唇にそっと自分の唇を重ねた。口づけながらふっとあの時汽車で見た女性の顔が脳裡をよぎった。彼女こそが僕の卒業記念写真の相手だった。
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