そんな彼女をよそに、父親は続けて笑みを浮べながら、話始めたのである。
「日本にパパの幼なじみがいて、そこで下宿させてもらいなさい」
「日本に……知り合いの人がいたの？」
　その事を聞いて少し彼女は驚いたようだ。
（父さんに、友達いたんだ。国宝級ぐらい貴重な方だな）
　父親は娘が心中でこんな事を思われているのも知らずに話し続けている。
「ああ、パパを事業にも誘ってくれたよ。事業が起動にのったら、必ずまた、家族三人で一緒に住もう」
「うん」
　返事をし、胸をなでおろして、彼女は今日一番の笑顔でうなずき、安心したようだ。
「だったら今、その人は日本にいるのね」
　キラキラした目で彼女が尋ねると父親はクビを振り、答えたのである。
「いや、彼はね、僕たちと一緒に事業をする為、日本にはいないよ」
「じゃあ、奥さんがいるのね」
　もう一度、尋ねられた父親は、彼女とは対照的に、表情をクモらしているような面持ちで、
「いや、奥さんは亡くなられたよ。今は彼の子供たちが住んでいるみたいだよ」
と、またクビを振っては答えた。
　不意に母親が何かを思い出したように口にしたのである。
「確か…あなたと同じ年頃の子達じゃなかったかしら」
　この言葉を聞き、何か引掛かかり、母親に尋ねてみる。　
「いったい何人なの？　女の子もいるよね？」
「四人くらいだったかしら、さぁ、どうだったかしら」
「えっ、わからないの」
「ごめんね、昔のことであんまりパパもママもよく憶えてないのよ、ねぇパパ」

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