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虹を見上げた日

[264]  WINDY  2006-09-28投稿
一斉に降り出した雨が、急に止んで、傘をたたみながら見上げた空に虹が見事だった。虹なんて見るのはいつぐらいぶりだろう?私はしばらくの間それに見とれてしまっていた。惚けたような時間を携帯の着信音が現実に引き戻す。濡れないように肘にかけた買い物袋を手に持ちかえて夕飯の献立に思いをはせる。
夕餉の支度を終え家族が帰宅するまでのひと時にパソコンの電源を入れる。これもまた日常の一コマだ。なんということだろう、懐かしく見慣れたアドレスからメールが届いている。「かれこれ1年ぶりじゃあないかしら?」誰に聞かせるでもなく口にした私は胸の鼓動をふと意識する。それはどんどん音量をまして、開封するのに時間がかかってしまった。
「初めまして、河野歩の妹の知恵といいます。このたび兄が死去いたしました。このパソコンが家人の手に渡るため、貴女様からのメールは全て消去させていただきます。今後の連絡は遠慮していただきたくお願い致します」
それはただの一度も会ったことのない、メルフレの死を告げたものであった。
様々な思いが去来する。
私はいつしか私自身の鼓動に飲み込まれそうだった。それでも娘の帰宅を知らせる明るい声が私を現実に引き戻す。容赦ない日常の積み重ねに置いてきたもの、忘れてきたもののなんと多いことか。「お帰りなさい」と口にして私はPCの電源を落とした。

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