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天使のすむ湖64

[283]  雪美  2006-09-30投稿
湖は刻々とその表情が変わる。晴れたときには蛍が飛び交い幻想的になれば、曇りの日には濃い霧がかかり、まさしく白い洋館を包むお化け屋敷のように見える。確かにそう見えなくもない・・・

日中の午後はまた香里はキャンバスに向かい俺の肖像画を描き続けていた。時々震えて力が入らないと泣くこともあった。命を削りながら描いている姿が痛々しくて、やめてもいいんだよ、と俺が言うと、
「これだけは描き上げなくちゃいけないのに〜」
と更に泣かせてしまうので、またそれを俺はなだめては落ち着かせる、そんな日々になっていた。
なぜそんなに描かなくてはいけないのか、俺にはその時まだ十分理解できなかった。
写真だったら、桜井が撮ってくれたものが何枚もあるけれど、絵を描くには体調がいい日でないと絵筆が握れない、そのひたむきさにいつも負けてしまうのだ。しかし、泣き顔を見せるのは俺の前だけで、他の人には満面の笑みで迎えるのだから、その心遣いには頭が下がる想いがした。もう自分の体を支えるだけでも辛いはずなのに、病魔に冒されながらも、負けない意志の強さは本物だと俺は思う。
「香里は、強く美しい俺の天使だよ、愛してる。」
そっと頬にキスをした。
そして、涙をぬぐって抱きしめ、涙が乾くまで優しく震える背中をさすり続け、切なさが胸にしみていた。

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