蝋燭の火?
八月九日、11:50PM。
ミナミのとあるショットバーで、五郎は酒を飲んでいる。楽しむ様子でもないが、しかしヤケになっている様子でもない。それでも酒を次々に胃へと流し込む。
店では他に中年のサラリーマンが二人、若者連中が3〜4人ほど、それぞれの会話の中で、大いに酒を楽しんでいた。その頃になると、表の人通りの数も随分と少なくなっていて、そこら中に散らばったネオン管や街灯が、街をつつみ込むかのように、夜空に向けて光の膜をつくりだしていた。
「それにしても五郎さん、今日は珍しいわね。休み明けからこんなに飲むなんて。何かあったの?」
藤木征子はこのショットバー〈フラミンゴ〉のママである。女は少し心配そうに五郎の顔を覗きこんだ。男は神妙な顔つきで、手元にあるビールグラスを見据えていた。
「いや、何もないねん。ただ今日仕事を辞めてきてな、ほんでちょっと落ち込んどんねん…」
「あら、お辞めになったの? また何で…」
「俺な、明日からこの街におらんねん。ちょっとワケがあってな。多分もうここにも来ることはないわ。だからその前に、おまえに挨拶でもしとこ思って」
五郎と征子は、若い時分に恋人の関係にあった。二人は仲が良かった。若かったあの頃について征子がどのように思っているかなど、今となっては五郎には知る由もない。それからほんの半年ほどの交際の後、別れてからも度々会うことが多く、現在にいたるまで交流を持つこととなった。皮肉なことに、気軽に話せる仲の良い友人としては、互いに最適の相手であったのだ。あれからの征子の恋愛遍歴については、今まで五郎から触れることはなかったのだが、現在はすでに結婚しており、年下の夫がいることなどは、以前本人から聞かされていた。
「そうなの… それはまた淋しくなるわね」
五郎は何も言わず、ただグラスの中をじっと見つめている。
時間はゆっくりと二人の間を流れていく。
ミナミのとあるショットバーで、五郎は酒を飲んでいる。楽しむ様子でもないが、しかしヤケになっている様子でもない。それでも酒を次々に胃へと流し込む。
店では他に中年のサラリーマンが二人、若者連中が3〜4人ほど、それぞれの会話の中で、大いに酒を楽しんでいた。その頃になると、表の人通りの数も随分と少なくなっていて、そこら中に散らばったネオン管や街灯が、街をつつみ込むかのように、夜空に向けて光の膜をつくりだしていた。
「それにしても五郎さん、今日は珍しいわね。休み明けからこんなに飲むなんて。何かあったの?」
藤木征子はこのショットバー〈フラミンゴ〉のママである。女は少し心配そうに五郎の顔を覗きこんだ。男は神妙な顔つきで、手元にあるビールグラスを見据えていた。
「いや、何もないねん。ただ今日仕事を辞めてきてな、ほんでちょっと落ち込んどんねん…」
「あら、お辞めになったの? また何で…」
「俺な、明日からこの街におらんねん。ちょっとワケがあってな。多分もうここにも来ることはないわ。だからその前に、おまえに挨拶でもしとこ思って」
五郎と征子は、若い時分に恋人の関係にあった。二人は仲が良かった。若かったあの頃について征子がどのように思っているかなど、今となっては五郎には知る由もない。それからほんの半年ほどの交際の後、別れてからも度々会うことが多く、現在にいたるまで交流を持つこととなった。皮肉なことに、気軽に話せる仲の良い友人としては、互いに最適の相手であったのだ。あれからの征子の恋愛遍歴については、今まで五郎から触れることはなかったのだが、現在はすでに結婚しており、年下の夫がいることなどは、以前本人から聞かされていた。
「そうなの… それはまた淋しくなるわね」
五郎は何も言わず、ただグラスの中をじっと見つめている。
時間はゆっくりと二人の間を流れていく。
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