ファンタジスタ・『第六話』第一の難関
(マジで、泳ぐのか?)生まれてこのかた十四年と九ヵ月、まさか冬真っ盛りに郡山の汚水たれ込む、阿武隈川に飛び込めと云われるとはおもいもしなかった。すぐとなりには橋が架かっているが、指示は橋を渡らずに川を渡れ。はっきり言って死ぬ。流れはいつもより穏やかだが、冬の寒さのせいか、川がとても冷たく見える。せめて水温が同じか、高ければいいのに。そう叶うことを祈りながら、藤見崎は呆然と立ちすくむ他の受験生に目もくれず、さっさと水着に着替えた。「市福は金に困ってねんか?んないいの。」「いんでね?いまは受かることが前提だ。」「んだんだ。」すぐ隣では同じチーム同士なのか、他愛もない事を語っている。聞き覚えがあったが、かなり訛っている。同じ日本人でも、言葉には壁があるようだ。そして藤見崎は川岸に向かう、クリスマスの一週間前に、まさか海パンになるとは思ってもみなかったろう。時計は九時十五分になる、時間が無い、藤見崎は足から水音をたてて川に入るが、寒さで足が凍り付くところだ。夢中で泳ぐ、流されそうになるも、一生懸命泳ぐ、もう限界か、だか泳ぐ。対岸が見えた、もう少しだ。残った力を振り絞り、そして…‥。
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