ハリスタリス(4)『運命の月光祭?』
「母さん!衣装がないッ!」ダダダッと勢いよく階段を駆け降り、二階から降りてきたミーシャは、開口一番そう叫んだ。するとすかさず母の怒号がとぶ。
「バカだねこの子は!昨日自分で居間の長椅子に置いてただろう!」
はっとした顔をして「あっ!そうだった!」と叫んだ娘・ミーシャの母アニーは、極端に慌て者の娘の行く末を想って、深いふかい溜め息をついた。しかしそれも束の間、居間の時計を見ると午前11時を指している。確か本番前の通し練習開始が11時半。あと30分しかない。(あの調子では、ミーシャは時間が迫っていることに絶対気付いてないだろう。)そう思ったアニーは再び娘に向かって容赦ない怒鳴り声をあげた。…もちろんそれも娘を心配する親心ゆえ。
「ミィーシャッ!早くおし!あと30分で本番前の通し練習だよ!長がいなけりゃ話にならないんだから!…あぁもう。化粧もできてないじゃないか…!」
ろくに支度も出来ていない娘を見て、アニーはめまいがした。我が娘ながら、こんな子が舞姫の長に選ばれるなんて…。やはり間違っているのではないか、という気さえしてきた。
しかし当の娘は、そんな母の心配にちっとも気付かず、「化粧は本番前にやるの!汗かいたら落ちちゃうから!」と堂々と宣った。
さすがにアニーももう何も言う気になれず、娘に全て任せることにした。
「好きにしな。緊張するのは分かるけど…ミーシャ、絶対にヘマだけは…」
本気で心配そうな声色の母にミーシャは笑顔で応えた。
「大丈夫。分かってるよ母さん。」
するとアニーはミーシャの表情を見て、急に顔を曇らせた。そして。
「…ミーシャ。」
衣装に着替えていたミーシャは、名を呼ばれて反射的に返事をした。
「ん?何?」
「…許しておくれ…。私は…お前をちゃんと…育ててやれなかった…。」
それはミーシャにとって初めて聞く、弱々しくかすれた母の声だった。いつもの母からは考えられないほど弱々しく、悲しい声。
ミーシャはゆっくりと瞠目し、しかしすぐに元の表情に戻った。それからゆったりと微笑む。
「…いいよ。そのおかげでこうして舞姫の長になれたんだから…。私、幸せだよ。」
娘の心からの言葉に、母アニーは微かに頷き、静かに、消えそうな声で娘の名を呼んだ。娘の本当の名を。
「……──ミュシャ…。」
「バカだねこの子は!昨日自分で居間の長椅子に置いてただろう!」
はっとした顔をして「あっ!そうだった!」と叫んだ娘・ミーシャの母アニーは、極端に慌て者の娘の行く末を想って、深いふかい溜め息をついた。しかしそれも束の間、居間の時計を見ると午前11時を指している。確か本番前の通し練習開始が11時半。あと30分しかない。(あの調子では、ミーシャは時間が迫っていることに絶対気付いてないだろう。)そう思ったアニーは再び娘に向かって容赦ない怒鳴り声をあげた。…もちろんそれも娘を心配する親心ゆえ。
「ミィーシャッ!早くおし!あと30分で本番前の通し練習だよ!長がいなけりゃ話にならないんだから!…あぁもう。化粧もできてないじゃないか…!」
ろくに支度も出来ていない娘を見て、アニーはめまいがした。我が娘ながら、こんな子が舞姫の長に選ばれるなんて…。やはり間違っているのではないか、という気さえしてきた。
しかし当の娘は、そんな母の心配にちっとも気付かず、「化粧は本番前にやるの!汗かいたら落ちちゃうから!」と堂々と宣った。
さすがにアニーももう何も言う気になれず、娘に全て任せることにした。
「好きにしな。緊張するのは分かるけど…ミーシャ、絶対にヘマだけは…」
本気で心配そうな声色の母にミーシャは笑顔で応えた。
「大丈夫。分かってるよ母さん。」
するとアニーはミーシャの表情を見て、急に顔を曇らせた。そして。
「…ミーシャ。」
衣装に着替えていたミーシャは、名を呼ばれて反射的に返事をした。
「ん?何?」
「…許しておくれ…。私は…お前をちゃんと…育ててやれなかった…。」
それはミーシャにとって初めて聞く、弱々しくかすれた母の声だった。いつもの母からは考えられないほど弱々しく、悲しい声。
ミーシャはゆっくりと瞠目し、しかしすぐに元の表情に戻った。それからゆったりと微笑む。
「…いいよ。そのおかげでこうして舞姫の長になれたんだから…。私、幸せだよ。」
娘の心からの言葉に、母アニーは微かに頷き、静かに、消えそうな声で娘の名を呼んだ。娘の本当の名を。
「……──ミュシャ…。」
感想
感想はありません。
「 海希 」の携帯小説
- 【携帯版】多賀城[たがのき]の携帯サイトが完成しました。
- PC用小説サイト新設のお知らせ
- 「携帯小説!」がスマートフォンに対応しました
- 【状況報告】03/18の管理人現況
- 【ネット復活】更新再開
- 管理人です。
- サイトの新デザインを作ってみました。