君の掌
2012年日本。経済の続くこの国では、ある不思議なウィルスが牙をむいていた。そのウィルスの名前はニシルス。 最初それを聞いた時、いやだなぁと思った。だって、まだ私にはやりたい事がたくさんある。 勉強も、知らない場所に行く事も、絵を描いたりする事も。 そして、何より、恋を叶えてみたかった。 「春南〜」「は〜い」先生に呼ばれた少女がその元へ駆け寄って行く。それは中学生恒例のテスト返却だった。少女が受け取ったプリントには96点の文字。少女は笑顔で「よっしゃ!」とガッツポーズを取った。「見崎〜」次に呼ばれた人の邪魔にならないように少女―由希は席に戻った。由希はいわゆる優等生で、今学年順位は3位である。「すごいよ〜!いいなぁ由希は。」斜め前の席にいた黒い短髪の少女が由希のプリントを覗き込んで言う。少女の名前は綾歌。由希とは大の親友だ。「そんな事無いよ。綾歌も頑張れば取れるって!」「そうかなぁ?」綾歌は少し不審そうな顔をしながら言う。そしてその3つ隣の少年を見た。少年は訝しげに自分の手にあるプリントを見つめている。由希が綾歌とクスクス笑い、席を立った。「なぁにやってんの井畑!」そう言うと少年、通称井畑は驚く位飛び上がった。「なぁっ!何だよ由希!」そう言った井畑のプリントには45点と記載されていた。「…井畑、グットラック。」「だぁ!見るんじゃねぇ!」井畑がバッとプリントを隠す。「あはは!井畑ださい!45点45点〜!」「言うな―!!」二人が追いかけっこを始める。でも由希はただ楽しいばかりだ。何と言っても由希の好きな人は井畑なのだから。
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