君の掌
その後の10分休み。綾歌と由希はトイレで話していた。綾歌がまず口火を切る。「ねぇ由希、本当に井畑が好きなの?」由希がハッとして綾歌の前で素早く手を振った。「メールで話したじゃん!そうだけど、井畑は一回沙姫に告白してるんだよ!?」沙姫とは一年のマドンナだ。「でもフラれたんでしょ?大丈夫だって!」綾歌が由希の肩をバンバンと叩く。流石柔道部、攻撃が痛いゼ。「ぅ〜ん…だから二人っきりの時に言いたいんだ。」綾歌がトイレのドアを開けながら由希を見る。「そんなチャンスを見逃したら駄目だよ由希!まぁ〜頑張れ!」「うん…サンキュー綾歌。」それが救いのように由希はフラフラと綾歌に付いて行く。実は何気なくアピールしてるけど、鈍いのか何なのか…「片思いって辛いなぁ…」中1の片思いって不思議な感じだ。でも…気付いてくれないから、尚更辛い。井畑、気付いてくれてるのかなぁ…? 「今ウィルスが流行ってるんだって。」そう言ったのは綾歌と由希のもう一人の親友、実菜子だ。少し癖のあるセミロングの黒髪が栄える。「ウィルス?」綾歌が実菜子の言葉を繰り返した。実菜子がこくりと頷く。「ニシルスってウィルスで、なかなか症状が現れないから怖い病気らしいよ?なんでも症状が現れて一週間で死ぬとか…」由希が顔を歪ませる。「え〜怖い!」そんな病気にかかったら井畑に告白できない。そう思うと少し怖い気もする。「今はニシルスに対抗するワクチンも予防法も無いらしいの、気を付けないとね。」由希がこくこくと力強く頷いた。多いに賛成する。綾歌もそれに賛成した。「そうだね、特に由希!」「へぇ!?」由希が綾歌に向き直る。綾歌が由希にこそこそと相槌を打った。「だって井畑に告白しなきゃでしょ?」「当たり前じゃん!私だって嫌だよ!」小声で返した由希はいつも以上に鋭い目をしていた。
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