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人斬り女(一部)

[1149]  某日本人  2005-03-13投稿
「こんな私と、まともに向かい合える奴がいるとは。」

夜の雑木林に響く、女の細い声。

「お前だって一部始終を見ていたんだろ、私はとっくに気付いてたよ。」

町からはそう遠くない林、人斬りが現れたのは最近の事。だが、その姿を見た者はいない。正確にいえば、見た者は斬り殺されている。ここにいる青年一人を除いて。

「何も言わないな。恐れているのか、それとも、この先の死を想定して話す気も失せたか?」

静寂を照らす月明かり、それは同時に斬殺された三つの死体も照らしていた。

「本当に何も言わないつもり?」

「…」

「そんな目で見るな、傷が疼く。」

女剣士の肩には斬られた跡がある。恐らく、抵抗された時の傷跡。

「包帯を、持って来ましょうか?」

青年は恐れる事なく突然そう言った。

「余計だ。そんな事より、お前は命を惜しまないのか? 私がこの剣を振るえばお前の命はない、分かっているのか? 言っておくが、お前の持っている小刀などで私の剣は防げない。」

お互いに表情を変えない。女の剣からは血が滴り落ちている。

「僕は自分の命を何より大切にします。」

「そんな奴がなぜ私の前に現れる?」

「あなたに死んでほしくないからです。」

青年の言葉に、女剣士は目つきを鋭くした。

「お前に心配される謂れなんざ、どこにもない。元より私には生への執着心などない。」

「そうですか…」

「今は他人の心配より自分の心配をしろ。お前は生きる意志を持っている。ならばこんな所で斬られたくはないだろう。私について来い、そうすれば私はお前を殺さない。」

女剣士は剣を鞘に収めた。

「生きる意志がないって、辛いですね。」

「お前に何が分かる? 私が人を斬り続けている理由すらも分からないのだろ?」

その後、女剣士は何処ともなく歩き始めた。

「私はお前が気に入った。私について来い。」

「僕もあなたが気に入りました。」

「嘘はよせ、殺人鬼の私のどこを気に入るというのだ?」

「僕にも分からないです。」

「フン、お前を斬るのは、なぜかもったいない気がする。」

青年は笑顔で女剣士について行った。

お互いの心の内は、全く分からない。


(ショート版は、これで終わりです。)

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