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晴れた夜には星がみえる(1)

[342]  木村遙  2006-10-12投稿
 いつもとは、反対の改札を出た。バイトまでには、まだ時間があったし、私の住んだ街を憶えておきたかった。3年も住んでいて行ったことのなかった公園。夕方なのに人がいっぱいで、とりわけボート乗り場は、恋人たちで溢れている。そんな恋人達のボート乗り場の向うに人だかりがみえた。その人の輪の中に大道芸の若者がいた。
 こんなにきれいな顔の大道芸人がいるんだ。
 変なことに感心した。集まった人たちを完全に自分の虜にして彼は、鮮やかなパフォーマンスを演じていた。無数にもみえるボールが、空高く舞い上がる。パントマイムが魅了する。童心に返ってわたしは、短い時間を楽しんだ。彼の芸が終わると、彼の用意した小さな帽子に、次々とお金が入れられていった。彼と目が合った気がした。慌てて私は、財布から500円玉を取り出して、彼の帽子の中へ入れた。あっという間に、彼の周りから人がいなくなった。小さな女の子と私だけが、その場に取り残された。
「見に来てくれてありがとう。」
 彼は、そう言ってその女の子にお別れをした。彼の幸せそうな笑顔が印象的だった。彼が、わたしに会釈をした。わたしは、慌てて笑顔をつくる。彼の優しい目が焼き付いて、わたしは彼から目が離せない。彼は、手際良く荷物をまとめて、その場を去った。お母さんが来て女の子は、帰っていった。
 結局、私だけが取り残された。
 急に寂しくなって涙がでそうになった。
 夕刻の空にオリオンを従えた冬のシリウスが輝いていた。

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