狂愛〜名も知らぬ君〜
名も知らぬ君へ。
満開の桜の花が散りゆく頃、その桜の木の下で僕は君に初めて口づけた。そして僕らは永遠を手に入れた──…。
君は綺麗な人だった。流れるように艶やかな黒髪。今は閉じられているが睫毛の長い瞳。形のよい唇。スッと通った鼻筋。見るものを思わず惹き付ける、血色のように赤い洋服。なにより、その美しい表情…──蒼白い顔に浮かぶ、微かな苦悶の表情。
僕は、終焉の美を飾るような、儚げなその顔を見つめ、そして…眠る君の冷たい唇にゆっくりと口づけた。
一方的に重ねた唇から、僕の熱い吐息だけが漏れる。君のその乾いた唇を濡らして、閉じられた瞼に口づけを落とし、白い首筋に舌を這わせる。
だけど君はそれに応えてはくれない。…応えられない。
だって…君があんまり美しいから──…だから僕は、名も知らぬ君を殺してしまったんだ。
君が、僕以外の人間に見られることのないように、僕以外の人間に触れられることのないように…。
そう、僕は僕の欲望のために、白かった君の洋服を君の血で染めたんだ。
美しい君の、時間を永遠に止めたんだ…。
でもそれは僕なりの愛だ。
『生』が一瞬でしかないのなら、『死』はきっと永遠だから…。
美しい君を美しいままで遺しておきたかったから…。
愛しているよ。
名も知らぬ君。
これを運命の出逢いと言わずして、なんと言うだろう。
愛しているよ。
名も知らぬ君。
僕も今君の元へ逝くよ。
そうしたら、今度こそ君の名前を教えてくれるかい?
愛しい…愛しい名も知らぬ君。
そして僕は君の胸から抜いたナイフを自分胸に突き立て、ひっそりと呟く。
『…今、逝くよ……。』
さっき唇を重ねたばかりの僕の口から、鮮血がほとばしる。
最後の桜の花びらが、魂の抜け殻となった僕の唇に舞い落ち、僕の血で赤く染まった。
満開の桜の花が散りゆく頃、その桜の木の下で僕は君に初めて口づけた。そして僕らは永遠を手に入れた──…。
君は綺麗な人だった。流れるように艶やかな黒髪。今は閉じられているが睫毛の長い瞳。形のよい唇。スッと通った鼻筋。見るものを思わず惹き付ける、血色のように赤い洋服。なにより、その美しい表情…──蒼白い顔に浮かぶ、微かな苦悶の表情。
僕は、終焉の美を飾るような、儚げなその顔を見つめ、そして…眠る君の冷たい唇にゆっくりと口づけた。
一方的に重ねた唇から、僕の熱い吐息だけが漏れる。君のその乾いた唇を濡らして、閉じられた瞼に口づけを落とし、白い首筋に舌を這わせる。
だけど君はそれに応えてはくれない。…応えられない。
だって…君があんまり美しいから──…だから僕は、名も知らぬ君を殺してしまったんだ。
君が、僕以外の人間に見られることのないように、僕以外の人間に触れられることのないように…。
そう、僕は僕の欲望のために、白かった君の洋服を君の血で染めたんだ。
美しい君の、時間を永遠に止めたんだ…。
でもそれは僕なりの愛だ。
『生』が一瞬でしかないのなら、『死』はきっと永遠だから…。
美しい君を美しいままで遺しておきたかったから…。
愛しているよ。
名も知らぬ君。
これを運命の出逢いと言わずして、なんと言うだろう。
愛しているよ。
名も知らぬ君。
僕も今君の元へ逝くよ。
そうしたら、今度こそ君の名前を教えてくれるかい?
愛しい…愛しい名も知らぬ君。
そして僕は君の胸から抜いたナイフを自分胸に突き立て、ひっそりと呟く。
『…今、逝くよ……。』
さっき唇を重ねたばかりの僕の口から、鮮血がほとばしる。
最後の桜の花びらが、魂の抜け殻となった僕の唇に舞い落ち、僕の血で赤く染まった。
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