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天使のすむ湖85

[301]  雪美  2006-10-28投稿
桜井のバイクに乗せられて、学校の体育館に着くと、もう式ははじまり、ちょうど次は式辞を読む場面だった。
桜井に手を引かれて、式でしんみりとする中をかけ抜けた。

はあっはあっと息を切らせながら、ざわめく中舞台したの階段まで来ると
「行って来いよー」
そう桜井に背中を押された。
女子がざわざわとしだす。
マイクの前まで一樹が行くと
「まずは、式に遅れたこと申し訳ありません。重要な役目をいただきながら、このような失態をお許しください。」
ペコリと頭を下げた。
「この学び舎で、青春のときを過ごし、共に学んだ友人、恩師の方々尊い機会をいただきました。・・・・・・卒業生代表、相馬一樹」
山本先生の用意したものと、自分で少しアレンジしたものを混ぜながら言った。
すると、泣き出す同級生や、
「先輩卒業しないで〜」
「一樹王子サマー」
とざわめきと泣き声に包まれて、式に支障をきたしていた。
「皆ー泣きたい気持ちはわかるから、今は静かに送ってほしいんだ、頼む。」
そう舞台の上から一樹が頭を下げると、ざわめきはピタリとやんだ。
「鶴の一声ならぬ、相馬の一声は効くね〜」
桜井は自分の席に戻り、つぶやいた。
蛍の光や仰げば尊しを歌い、なんとか式には穴を開けずに、無事に済んだ。
ほっとしたのは、見守っていた一樹の母と、担任の山本先生だった。岬も立派な一樹の姿に涙をこらえられなかった。ハンカチで岬は涙を抑えながら、卒業式を終えた。
この卒業式の神妙な雰囲気の中で、あれだけの黄色い声に包まれた卒業式はなく、先生方の記憶にも、式辞者遅刻で克明に刻まれたことだろう。

しかし一樹はそんなことは気にしてはいられなかった。式が終わるとすぐに担任から卒業証書を受け取り、校門めがけて走り出した。
でも目ざとい追っかけが着いてくるのだー
「ごめん今日だけはどうしてもダメなんだ〜」
そう言いながら走りぬけ、門近くまでくると、
「早く乗れよー」
と桜井がまたバイクで乗せて、香里の待つ湖を目指した。


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