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15歳のデイトリッパー【後日談・前編】

[424]  けん  2006-10-30投稿
夏が終わり秋がきた。

我々は友達だったし、そのことはやがて冬がきても変わらなかった。

ある時、友三が私に訊いた。
「お前、進路どうするん?」
我々は最後の路上ギターを終えて、帰りの電車に揺られているところだった。

この日で路上ギターをやめることは、以前から二人で決めていた。
一週間後に私立高校の入試が控えていたのだ。

「俺は公立の高校に行くで。今度の私立入試は保険みたいなもんや」

「ふぅん…高校か。俺はどっちにしろ親父の仕事を継ぐしなぁ」
友三の父親は建設会社を営んでいた。

「まぁ高校ぐらいは卒業しときぃや」
一般的な意見を述べる。

「うん…でも俺、音楽関係の仕事にも興味あるねんかー」

一度だけ、我々はステージに立ったことがある。
観衆の前でギターを弾きながら歌を唄ったのだ。
大型デパート内の一角とはいえ、かなりの人が集まった。

「お前なら何でもできると思うけどな」私は言いながら思い出す。
そもそも、あの一度きりのステージ演奏は友三の好奇心から始まった。

「なぁ、ここでギターやろうや!面白そうやぞ」
その時ステージでは四人組のコーラスが唄っていた。

私は反対した。
こんな場所でやるには我々は経験不足だったし、第一、友三の歌唱力はあまりに乏しかったのだ。
「まだ早いやろ。もっと練習せなあかん…って、おい!!」
私が言い終わらぬうちに、友三は受付へと走っていった。

「大丈夫やって!さぁ早速お仕事。来週の日曜日に、このステージで」

やればできるものである。
当日の演奏はまずまずの成功を収め、交通費として二千円をもらった。
我々はそれをギャラと称し、無邪気に喜び合っていたものだ。

「それからお前には人を引きつける能力がある」
私はふと、友三のおじいちゃんの顔を思い出す。
友三に騙されながらも、楽しい夏だった。

「なんかお前、今日はしんみりしとるなぁ?」友三が私に作り笑顔を向ける。

「ギターも今日で最後やけど、お前と会うのも今日で最後や」私はきっぱりと言った。
「親もあんまりええ顔してへんねん」
けじめをつけなければならなかった。
実際のところ、どうすることが正しかったのかは分からない。

「そうか…」友三はそれからずっと黙り込んだ。

感想

  • 4937: 後日談書いてみました。最初から読んで下さっていた方がいるなら、それは嬉しいことです。けん [2011-01-16]

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