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Hな方程式?

[591]  放射朗  2006-11-05投稿
 しかしやはり格闘技のプロだったのか、小さな体の割には彼女の体は思いのほかどっしりとしていて、投げ飛ばされてのはこっちの方だった。
 危うく真っ赤な溶鉄に顔を突っ込みそうになって、飛びのいたあと彼女を見ると、やっと彼女が落ち着いたのか、荒れ狂う光線銃の軌跡はおさまり、彼女は肩で息をしながら目をつぶっていた。
「大丈夫かい? ごめんよ。驚かせたみたいで。 でも、悪気はないんだ。 状況上どうしようもないことなんだ」
 ひやひやしながら声をかける。
 目を開けた彼女は、ふうと大きく息を吐いて、また叱られちゃうなとつぶやいた。
 すごく悪い事をした気になった。
 
 燃え上がったプラスティックや溶け落ちたドアを、二人で消火器を使って始末し終えるのに約10分かかった。
 彼女の着替えを受け取って、僕がそれを着た。僕としては裸でいるよりはるかに落ち着かないが、また辺りを火の海にされることを考えれば超ミニのスカートに足を通さざるを得なかった。

「とにかく最初にお互い名乗りあわないかい? 二人しかいないから、君と僕で済むけど、僕としてはかわいい女の子の名前はぜひ知っておきたいんだ」
 熱湯で戻したヌードルを食べて、コーヒーを飲んだ僕は、すっかり彼女に対して強い立場に立っていた。なぜかわからないが、彼女は相対する男を優位な気持ちにしてしまうものを持ってるみたいだ。
「私はサイン・ルー・ケロンです。出身は工業惑星のタチバナ。普通はサインって呼ばれてます」
 神妙な声で彼女が自己紹介をした。
「僕はドスビー。この船が二日前に出港したサイラス生まれだ。密航したのは悪かったけど、こうでもしないとあの星を脱出する手段がなかったからなんだ。一般人の星間旅行は禁止されているから……」
 サイラスが星間旅行を禁止してるのには、もちろん理由がある。
 砂漠だらけのサイラスから、他の肥沃な星に行きついた旅行者はふるさとの星に帰る気などまったく無くなり、よその星に住み着くことになる。
 それで一気に人口が減り出したことに腹を立てた政府が、一定の人口に戻るまで人々にサイラスを出ることを禁止したのだった。
 そこまではまだ合法的だった。

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