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Hな方程式?

[584]  放射朗  2006-11-05投稿
「宇宙服を着ていたとしても、何も無い宇宙空間に一人ぼっちは寂しいね。寒そうだ。助けが来るまでに凍えそうだね」
「宇宙服を着て出るのはかまいませんが、助けが来ると思うのは非常識ですよ」
「助けがこなけりゃ死んでしまうじゃないか。それは無いよ。それで、もし僕が退去しなかったらどうなるのかなあ」
 自分がこんな猫なで声を出せるなんて知らなかった。
「この船は約十時間後にワープ領域に入る予定なんです。ワープ領域はご存知でしょうが船を瞬間移動させる時空間の隙間で、この宇宙上に無数にできたり消えたりしています。船のコンピューターが計算して、そのワープ領域に一定の時間内に入ることで星間旅行が実現できたわけですが、あなたが退去してくれないと、加速が足らずにそのワープ領域に入れなくなります。そうなると、帰るだけの燃料は無いわけですから、燃料が尽きて、なにも無い宇宙空間を永久にさまようか、どこかの太陽の重力に引かれて燃えてしまうか。そのどちらかになってしまいます」
「ちょっと待ってよ。まだ出港して三日目だよ。そんなに飛んでいないんだから、今引き返せば燃料は足りるんじゃない?」
 引き返すことは僕にとっての死を意味することでは同じ筈なのに聞かざるを得なかった。
「それは無理です。これまで加速してきた速度を落とすだけで、これまでと同じ燃料を使いますから、とても足りません」
 つまりどうあってもそのワープ領域十時間以内に入らないと生還できないってことだ。
 しかし考えてみれば答えは簡単だ。
「僕の分、重さが増えたのがまずいんだったら、その分なにかを捨てればいいということじゃないか。服なんかの軽いものじゃなくて、この椅子だとかそこらへんに飾ってある変な絵だとか。それでも足らなけりゃ、積荷のいくつかを僕が買い取るから、それを捨てればいい。なに、死ぬ気で働けばそのくらい二年で返せるさ」
「積荷はすでに買い手が決まってるんです。通信機で荷主と交渉するのは自由ですが、多分時間の無駄ですよ。足元見られますから、死ぬまでただ働きさせられるのが落ちです。きっとあの時死んでりゃ良かったって思うでしょう」
 しかしかわいい顔してきつい事を言う娘だ。

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