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アシンメトリー(3)

[423]  砂川華波  2006-11-12投稿
華波はさっきから、時計ばっかり気にしている。

「夏生くん、遅いね。」
優菜がA&Wのオレンジジュースを差し出した。
「ありがと。時間も言ったんだけど。」

搭乗アナウンスが流れる。

「も、来ないかもよ。また、あの時みたいに海行ってるかもね。」


あの時。そう、あの時。
夏生は初デートに大幅遅刻をしてきた。
自習室で待つ華波に、いつもの笑顔で近づく。
「ごめん、大分待たせた。」
「どこ行ってたの?携帯にかけてもとらないし!!」
「携帯は車の中に置きっぱなししてたさぁ〜〜。」
少し膨れた華波をなだめるように、平然と言い放った名言がこれだ。

「夕方の波がよかったからよぉ〜〜。」

さすがの華波も、その言葉には呆れた。
少し濡れたやわらかい猫っ毛をみて、もう怒れない華波だった。


「もう、諦めな。きっと海だはずよ。」
優菜の優しい声に我に返ると、スーツケースを握った。

「見送りに来てくれてありがと。また、夏に帰って来るから!!」
華波はたくさんの友達に見送られて、ゲートをくぐる。


ゲートをくぐって、飛行機に向かう通路に立ちすくむ。
青い海が見えた。
憎たらしいほど美しい海。
夏生が夢中で愛する海。
涙で先が滲んでいく。

切ろうとした携帯にメールがきた。
夏生からだった。

「華波、ごめん。見送り行けなかった。もう、泣き顔は見たくないから。海から手を振るから。」
華波はまた泣き崩れてしまった。



窓から見える島が小さくなる。
青い海のどこかに夏生がいると思ったら苦しくて、嗚咽が止まらなかった。



「観光客め!!タバコのポイ捨てするな!!俺たちの海やし!!」
タバコの吸殻を拾いながら、夏生は空を見上げた。

眩しい太陽に目を細めると、
轟音をたてる飛行機に手を振った。

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