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嘆きの華

[484]  最上  2006-11-14投稿
寒いな…
俺は呟いた。独り言は癖なのだ。そのまま目の前にある俺のいきつけの店『囁きと嘆き』に入る。

「いらっしゃいませ」
いつもとかわらぬ店長の優声。この微笑ましい笑顔をみた者の誰が、この悪趣味な店を作り上げたのがこの男だとわかろうか。

壁に串刺しにされた頭蓋骨。五芒星の紋章が刺繍されたカーテン。そして明かりを拒絶するかのような窓。

俺はいつもの席に座り店内で唯一の窓から外をみる。この店とは異世界とさえ思える外界は誰にでも等しく輝く氷の結晶をみせている。

「オリジナルコーヒー」
「かしこまりました」
ここのコーヒーに優るコーヒーはない。店長ブレンドの味に魅了された俺は幻の飲み物のせいで毎日ここに通わされているのだ。
最初は不気味に思えたこの店も今では心が休まる俺の隠れ家となっている。

そんな物思いを珍しい客の会話がさえぎった。俺は思考を停止させた。

「嘆きの華はここにはないみたいだな…」
「だからいったじゃねぇかよ。んなもんないって」
「いや…間違いない。間違いなく今年なんだよ!」

小声で話す男達の努力は甲斐無く、全部丸聞こえだ。ばかばかしい…また『嘆きの華か』。

嘆きの華−今年世間を賑わす伝説上のなにか。噂によれば千年に一度だけ手に入れることができるらしい。それもちょうど前回から千年後ということから「サウザンド」やらいろいろな呼び名がついてる。

伝説によれば今年がそのちょうど千年後なのだそうだ。それを手にした者にはなにかが与えられるという。ありえない。俺はそんな迷信は信じないのだ。

再び、俺は考え事をぶち壊されることになる。
豪快に戸をぶちあけて入ってきた女。容姿端麗だがまだ幼さの残る顔つきをしている。そいつが息切れをおこしながら言ったのだ。

「嘆きの…嘆きの華をつかんだ!」
「はぁ?」
俺はつい間の抜けた声を出してしまった。

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