青き空に浮かぶ白い雲 4
そのときの私達にとって、一番必要だったものを奪われた。
一瞬にして。
目の前に起きているのは現実なのか。
それとも悪い夢なのか。
残酷な事件後、私と愁はしばらく何も
いえなかった。
というより、何の思いも無かったから。
あのとき、自分が何を考えていたのか、
何を想っていたのか。
何の記憶も、感覚も残ってなかった。
私と愁は5年の年月を重ねて
やっとあの事件を心の片隅において
生きていけるだけの力を蓄えた。
今の私達は、あの頃よりも
少しは強くなった。
「夕飯、どうする?」
愁が私に聞く。
「オムライス食べたい。」
きっと今、凄く顔がにやけてる。
愁はちょっと困った顔で
「えーまた?一昨日も食べたじゃん!」
と私に言う。
「いーの。オムライスが食べたいの!!」
愁は私のわがままをいつも受け入れてくれる。
私の好きなように。私が望むことを。
そんな優しさを、時々私は自分の父が生きていたらこんな感じだったんだ。と思ってしまう。
「分かったよ。んじゃ買い物行くべ。」
愁が財布を取って、玄関に向かう。
小さな玄関に愁が背中を丸めて靴を履く。
前より、少し大きくなった愁の背中。
愛しくて、いつも飛びつきたくなる私。
「早くしろよ。暗くなんだろが。」
ちょっと怒って愁が言う。
「うん。」
私は笑って愁の後についてって、愁の手を
しっかりと握った。秋の冷たい風に負けないように。
あんなにも残酷な事件があったのに、
私達はたった二人でそれを乗り越えた。
二人で支え合って、二人で生きてきたから。
私にとって、愁は全てだった。
二人でずっと生きていけると思ってた。
だから、私は、一人で生きていくという事が
どんなに寂しくて、つらいことか知らなかった。
独りぼっちになることがどんなに
怖いことなのか、知らなかった。
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