永遠(とわ)の夢 4
「慎二さん、八百比丘尼の話って聞いた事ある?」
「やおびくに、…? 何だよそれ、新種の生物?」
葛城静はその返答に一瞬困惑の表情を浮かべ、むぞうさな仕草で髪をかきあげた後、話を続けた。
「やお、は数字の八百で、〈比丘尼〉は尼僧を指す言葉よ。
つまり、八百年もの長きにわたって生き続けた尼さんのお話ね。
その長寿のきっかけとなったのは、人魚の肉を食べた事。
つまり、私達にも同様の事態が起きてるって訳よ。
どう?…幾らか事情飲み込めたかしら」
「どうって言われても…。大体、僕がこの世に生を享けてから三十年も経ってないぞ。
それ、八百は八百でも『嘘八百』の類だろ?」
「あら、うまい事言うじゃない、ふふ。
ただ、生き続けるのは心と記憶だけみたいね…」
端正な顔にほほ笑みの華を添えた静。
彼女はここでいったん話を中断して、ティータイムをもうける様だった。
謎めいた女性と、眉唾ものの話の数々……。
(まさか毒を盛られるなんてのは無いよな…)
…等々、とりとめもない事を思いながら、キッチンに向かう彼女、静の優美な後ろ姿を見送る僕であった。
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