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フェニックス 8

[470]  導夢  2006-11-21投稿
「……」
警備員達は皆、そんな馬鹿な、といった表情だった。クロウはただの雇われた傭兵。しかし、その実力を知らないわけではない。クロウが地に伏したこと、それは彼らにとって相当な衝撃を与えた。何か行動を起こそうとする者は誰一人いない。警備員達の中には。
動いたのはゼノス一人だけ。
塀まで駆け寄り、僅かな凹凸に指をかけ驚異的な握力でよじ登る。警備員達が我に返ったころには、ゼノスはもう塀を登りきり飛び下りたところだった。

「これだけ傷だらけになって、結局何も分からず終いかよ」
ホテルの自室で、そう愚痴をこぼした。
ゼノスはエクネの屋敷から泊まっているホテルへと何事もなく戻ってきた。街の権力者の敷地内で、あれほどのことをしておいてだ。
今も街は平穏なまま。まるであの出来ごとはなかったんじゃないかと思ってしまう程に。
「ありがと」
傷の手当てをしていたゼノスの背後からいきなり声をかけられる。
一気に緊張が全身を突き抜ける。
声の主は真後ろにいる。
「振り向かないで」
首に冷たい感触。
「ノーメイクなの」
ふふっ、と小さく笑う。
「ノーメイクでも十分美人だと思うがな、セティ」
平静を装ってはいるが、声をかけられるまで気配を全く感じさせない力量とこの状況。ゼノスの頭の中は警告音が鳴り響いていた。
「あら、そう?見たいなら見てもいいけど、そのかわり私じゃなくて天使の顔になるわよ?」
さらっと死刑宣告を言い渡す。
「それは御免だ。で、俺に何の用だ?殺しってわけじゃなさそうだな」
殺しが目的ならすでに死んでいるはずだ。
「ゼノス、あなた何でこんなことになったか知りたくない?」
耳元で囁く様は端から見れば恋人同士のようにも見えるだろう。
「そりゃ、知りたいさ。教えてくれるのか?」
下手をしたら、訳も分からずこの世界から消えてたところだ。
「ここでは言えないわ。オリュンポスまで来て」
「オリュンポス!?聖都オリュンポスか?ティノア神聖帝国の首都だろ。何でそんなところまで…。それに、また戦わされるんじゃないのか?」
そんなことになったら只の馬鹿だ。
「これを見れば信用してくれるかしら」
ゼノスの前に出されたのは、
「これは、オリュンポスの通行証…」
首都という性質上、安全の為オリュンポスは通行証を持つ者でなければ出入り出来ない。
「この刻印は…帝室の刻印!」

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