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サンタクロースと靴下

[301]  三浦ロゼ  2006-11-21投稿
 去年も一昨年もこの時期は大忙しだった。仕事の合間をぬって、いろんなお店を見て、彼の欲しがっているものを探りながら、当日の予定を考えて…。
 「靴下ぶら下げないとプレゼントもらえないよ。」
って子供じみたことを真顔で言いながら彼はベッドの端に靴下をぶら下げた。親指の辺りがもう擦れていて
「こんな汚い靴下じゃ入れてくれないよー」
と私が言うと
「赤や緑の可愛い靴下はありふれていてサンタクロースも見飽きているよ。こんな靴下は滅多にないからすぐに見つけてくれるよ。」
と自信満々に言い放ち、私達は抱き合って眠った。
 12月の寒空に光が射して私は目を覚ました。カーテンを明け、コーヒーを入れようとベッドから起き上がろうとした時、手首をぐっと掴まれた。
「おはよう。コーヒー入れてこようと思って。」
彼は無言で指を差した。その先には角ばって変な形をした靴下があった。中には私が欲しかったネックレスが入っていた。
「メリークリスマスー」
眠たげな目を擦って、彼は私にキスをした。
 今年も冷たい風が吹く季節がやってきた。街のショーウィンドウもカフェのコーヒーカップも赤く染まりだす。駅の雑踏には手を冷やしながら愛しい人を待つ人たちが溢れていく。一人、また一人と冷たい手を温めてくれる手に迎えられ雑踏に姿を消して行く。

 嫌いになったわけじゃなかった。ただ、もっともっと大切にして欲しかった。それが言えなくて、いつの間にか二人の間には距離が出来た。別れを言い出したのは私だった。冷たくしたのも私だった。離れていったのも私のほうだった。それなのに、私は今も彼を待っている。彼を愛している。彼の見つめる先には他の誰かがいて、彼のサンタクロースがやってくるのも他の誰かのところなのに。
 気がつくと雪が降り始めていた。きっと明日の朝には辺り一面真っ白になっているのだろう。私はベッドの端に靴下をくくりつけた。赤でも緑でもない、はきふるした靴下。サンタクロース、いや彼が私をすぐに見つけてくれるように。明日の朝、靴下に何も入っていなくてもいい。欲しかったネックレスが入ってなくてもいい。目が覚めた私に、メリークリスマスとキスをくれるあなたが隣にいて欲しい。
そう願い私は独り眠りにつく。
彼のいない、独りきりの雪の夜に…

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