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水無月密 さんの投稿された作品が111件見つかりました。
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流狼−時の彷徨い人−No.11
晴信が家督を継ぐ前、先代の信虎は戦好きの性格から領民を苦しめていた。 それを見兼ねた晴信は家臣と謀り、父を甲斐国外に追放していた。 そして今、家臣と領民を護るため戦に明け暮れる晴信は、自分に似過ぎた三郎を警戒するようになった。 それが武田家の運命を歪めるとも知らずに。「それで、景虎は受け入れたのか?」「その様です」「殺すなり、捕らえるなりしてくれれば、攻め込む理由ができたんだがな」 この頃の景
水無月密 さん作 [413] -
流狼−時の彷徨い人−No.10
−同日、夜− 晴信は縁側に座して月を見ていた。我が子に刺客を放ったこの男は、酒を飲みながら何事かを考え込んでいた。「お館様、三郎様を取り逃したとの報告が入っております」 背後に膝まづいた家臣がそう告げた。晴信はその家臣を一瞥すると、鼻で笑って酒を飲み続けた。「三郎は越後に逃げ込んだか、…お前の思惑通りに事が進んだな、信房」 信房が三郎と内通していたことに、晴信は気付いていた。 信房自身も隠し通
水無月密 さん作 [488] -
流狼−時の彷徨い人−No.9
無事に春日山城へたどり着いた三郎。 半次郎があらかじめ連絡していたこともあり、景虎とは円滑に逢うことができた。 景虎は三郎より十三年上で、この時はまだ二十一歳だった。 景虎が長尾家の家督を継いだのは、これより三年前の1548年。 先代にあたる兄の晴景は病弱で、越後一国の人心を掌握するだけの才能がなかった。それを危惧した家臣達に推されて、景虎は越後の国主となっていた。 二人の対面は城内で行われた
水無月密 さん作 [546] -
流狼−時の彷徨い人−No.8
「申し遅れましたが、私は武田三郎といいます。 …宜しければ、貴女のお名前を教えていただけませんか?」 半次郎を埋葬してくれたこの女性に、三郎は恩義を感じていた。その恩人の名を知っておきたかったのだ。 女に教える気はなかった。だが、三郎が無垢な瞳で見続けていると、堪らず口を開いてしまった。「………ノアだ」「ノア殿ですか、いいお名前ですね」 三郎は笑顔でそういったが、ノアは何も答えず、それ以降も口
水無月密 さん作 [468] -
流狼−時の彷徨い人−No.7
「行くぞ」 半次郎の死に何の感傷もない女は、そういって歩きだした。だが、三郎は半次郎から離れようとはしない。「半次郎殿を埋葬します。それまで待って下さい」「……オマエは追われているのだろ? そんな事をしていては、追い付かれてしまうぞ」「それでも、半次郎殿を野ざらしにしたままでは行けません。 この人がこんな所で人生を終えねばならなかったのは、私のせいなのだから」 流れる涙を拭いもせず、三郎は小刀を
水無月密 さん作 [529] -
流狼−時の彷徨い人−No.6
半次郎は刀を鞘におさめると、女に差し出すようにして地に置いた。「……貴女に頼みがある、…この少年を越後の国主、長尾景虎様の所へ……連れて行ってはもらえまいか」 絶え絶えの息の中、半次郎は頭を下げて懇願した。 女は黙ったままだった。 この女が何者なのか、何の目的で自分達の前に現れたのかはわからない。だが風前の灯火である半次郎には、この女に敵意が無いのならそれでよかった。「……三郎様が景虎様と出会
水無月密 さん作 [482] -
流狼−時の彷徨い人−No.5
半次郎が構えた剣先の闇、そこに浮かぶ白い人影。その姿がはっきりとした時、半次郎は自分の目を疑った。 人影の主は若い女だった。 見知らぬ衣服をまとったその女は、闇に同化した黒髪に雪のように白い肌をもち、その顔立ちはぞっとするほどに整っていた。「……キサマ、もののけか!?」 夜の森にこの女は場違いだった。だが、半次郎がそう判断したのは、この女の体に秘められた、強大で得体の知れない気を感じたからだ。
水無月密 さん作 [488] -
流狼−時の彷徨い人−No.4
「半次郎殿っ!」 戦闘の終わりを感じた三郎は、耐え兼ねて駆け出していた。 待っているのは敵かもしれなったが、今の三郎には半次郎の安否の確認だけが全てだった。 三郎がたどり着いた場所には、数日前まで家臣だった兵達が倒れていた。立っている者は三郎以外に誰もいない。「半次郎殿っ、半次郎殿ぉぉぉ!」 張り裂けんばかりの不安に襲われる三郎は、何度も半次郎の名を呼んだ。「……ここです、三郎様」 消え入りそ
水無月密 さん作 [505] -
流狼−時の彷徨い人−No.3
越後との国境までたどり着いた三郎と半次郎であったが、二人は目的地を目前にして窮地に追い込まれていた。 晴信は三郎の逃走路をいくつか予測し、その最終地点に兵を配置していて、その一つが三郎達の行く手を阻んでいたのだ。 敵の数は二十。三郎を連れての強行突破は無理だろう。だが、掃討するには数が多すぎる。 迷ってる時間もなかった。夜明けが近い今、長考すればそれだけで敵に見つかる危険が増す。「……半次
水無月密 さん作 [562] -
流狼−時の彷徨い人−No.2
まさに神業であった。その太刀筋は正確にして神速、相手の鎧を貫くほどに研ぎ澄まされた威力を宿していた。 これほどの腕を持ちながら、半次郎はどの大名家にも属さない自由人であった。仕官の誘いはいくらでもあったが、戦国の世の風を嫌い、全てを固辞していた。 そんな半次郎が傾倒する人物が二人いた。一人は聖将と謳われた長尾景虎。もう一人は武田家の家臣、馬場信房であった。 信房との出会いは今から二年前、半次郎
水無月密 さん作 [545]