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水無月密 さんの投稿された作品が111件見つかりました。
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流狼−時の彷徨い人−No.44
戦いを終え、海津城に入城した信玄は馬場信房と飯富虎昌の両名、そして嫡男の義信を交えて今会戦の評定をおこなっていた。 その席上、義信は信玄ににじり寄り、常に冷静沈着なこの男には珍しく、声を荒げて父を叱責していた。「父上、何故三郎の申し出を受け入れなかったのですかっ!」 三人は上杉家との同盟がもたらすであろう効果を、明確に理解していた。 何より義信には、父にここまで無下に扱われる弟が、不憫でならな
水無月密 さん作 [452] -
ベースボール・ラプソディ No.24
去年の晩秋、小次郎は八雲に勝負を挑んだ。 負ければ、二度と野球の話はしない事を条件に。 負けることの許されない小次郎は、いつにも増して練習に励み、そして八雲との勝負に臨んだ。 だがそれが、兄弟を悲劇の舞台へといざなってしまう。 季節外れの冷たい雨風を意に介さずにバットを振り続けた小次郎は、体調を崩して風邪をこじらせていた。 それでも小次郎は、勝負に執着した。 八雲が高校にあがる前に野球への関心
水無月密 さん作 [504] -
流狼−時の彷徨い人−No.43
「いいのか、シャンバラに送れば修復も可能だぞ」 洞窟を塞いだ巨石の前に立つ半次郎に、ノアが背後から語りかける。 彼は折れた刀で構えをとり、静かに気を立ち込めながらその問いにこたえた。「今の私に必要なのは、この刀にすがることではなく、手放す心の強さだと知りりました。 それに、なによりもこの刀自体が主の元に帰りたがっていますから」 半次郎は巨石に僅かな筋をみつけると、誰にも抜き取れぬよう、そこに深く
水無月密 さん作 [578] -
ベースボール・ラプソディ No.23
事の始まりは、幼い兄弟が町の少年野球チームへ入ったことにあった。 チームに入った当初より、八雲は投手としての実力が飛び抜けていて、彼の投げる球をまともに打てる者はただ一人、弟の小次郎がいるだけだった。 二人の前途にある野球人生は、順風満帆であった。 ただ一つ、二人が一つ違いの兄弟であること以外は。 なぜなら、幼少の兄弟にとって一年という年齢差は、実力差をつけるには余りにも大きく、ライバル心を抱
水無月密 さん作 [552] -
流狼−時の彷徨い人−No.42
華麗に宙を翔け、神速の一撃を振り下ろすノア。 それにあわせて、半次郎が刀を振り下ろす。だがその軌道は、ノアには向いていなかった。 ノアの攻撃を十分引き付けると、半次郎は自らの刀をあてて弾き落とした。 結果、互いの軌道を変えさせた半次郎の一撃はノアへと向かい、ノアの一撃は半次郎の左肩をかすめて大地を切り裂いた。 軍配は半次郎に上がったかに思えた。 だが、彼の刀は半分から先を失い、その切っ先はノア
水無月密 さん作 [440] -
ベースボール・ラプソディ No.22
「ただきついだけの練習だと、八雲の奴が露骨に嫌がりますからね。苦労しましたよ」 苦笑する哲哉。 この天才ともう一人の異才がいるからこそ、この部には笑顔と笑い声が絶えないのだろうと、大澤は思った。「真壁は自由奔放だからな、お前も大変だろう」 大澤がそういうと、一瞬哲哉の表情が曇ったようにみえた。「確かに大変ですけど、不思議と間違った事はいわないんですよね、あいつは。 …それに、自分には八雲に負い目
水無月密 さん作 [611] -
流狼−時の彷徨い人−No.41
烈しい火花とともに、ノアの剣が弾き返された。 頭上にかざした刀で防御した半次郎は、そこにはしった亀裂を目にし、己の甘さが招いた結果に自嘲していた。 そして、その刀を大上段に構えると、彼は凛とした瞳をノアにむけた。「次の一撃で、終わりにしましょう」 これまでにノアが繰り出した攻撃は、全てが上段からのものだった。 それに真っ向から受けてたつ意思を、半次郎はしめしていた。『……何かを悟ったか』 半次
水無月密 さん作 [508] -
ベースボール・ラプソディ No.21
「そう落ち込むなって、瞬発力を鍛える方法はてっつぁんが考えてくれるさ。 それに、オレが取って置きの秘策を教えてやっから」 秘策とやらに興味を示した小早川に、八雲はニッコリ笑いかけた。「いいか、走る前に自分の一番恐いものを思い浮かべるんだ。 それが追いかけてくる姿を想像すれば、いやでも速く走れるって訳さっ!」 二人のやり取りを見守っていた哲哉と大澤は、得意顔で語る八雲に呆れ果てていた。 だが、当の
水無月密 さん作 [526] -
流狼−時の彷徨い人−No.40
「興ざめだな、お前は戦乱を終わらせるよりも、その刀の方が大事なのか?」 核心をついたその言葉に、半次郎は目を大きく見開いた。 乱世を終らせるだけの力を得るためにノアの教えを必要としたが、いざ形見刀とそれが天秤にかけられると、無意識に前者をえらんでいた。 刀を使って防御していれば、少しは楽にノアの攻撃を防げ、反撃の一つもできたのやもしれぬのに。 刀を見つめる半次郎は、そこに宿る魂が泣いているを感じ
水無月密 さん作 [469] -
ベースボール・ラプソディ No.20
その様子を見守っていた大澤は、不安げに哲哉を見た。「お前が教えてやった方が良くないか? あの能天気な性格が、コーチにむいているとは思えないぞ」「大丈夫ですよ、あいつは教えるの結構上手ですから。 それに、走塁技術は自分より八雲の方が上ですからね」 笑顔の哲哉がそうこたえると、それを合図にしたかのように二人はスタートをきった。 やや遅れて走りだした小早川は前を行く八雲を猛追し、一塁ベースを目前にし
水無月密 さん作 [592]