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tomioちゃん さんの投稿された作品が57件見つかりました。
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箱の中
人は何故エレベーターという箱の中で耳をすますのだろう。何故、階数表示を祈るように見上げてしまうのだろう。私はエレベーターがあまり好きではなかった。何かしら気を遣わなくてはならないパブリックな乗り物だからだ。電車やバス、その他の箱形交通手段のいくつかも他人様と乗り合わせるという意味では似ている。しかし、その圧倒的な狭さは稀だ。意外にも静かで、短いのに長く感じる気まずいひと時。その日は、できるだけ
tomio さん作 [434] -
誰も知らない
俺は友達を殴った。先輩に殴られてイライラしてたから殴った。友達は後輩を殴った。俺に殴られた腹いせに殴った。後輩は野良犬を蹴った。俺の友達に殴られてイライラして蹴った。野良犬は通りすがりの若者を噛んだ。蹴られた人間と見間違えて噛んだ。若者は公園のホームレスを蹴った。噛まれた足が疼いて蹴った。何度も何度も容赦なく蹴った。ホームレスは死んだ。意味も解らずに死んだ。ホームレスは俺の父親だった。
tomio さん作 [441] -
非で不の未な感 (下)
嗚呼嗚呼嗚呼、聞こえんのん?嗚呼嗚呼嗚呼、ここに居ん。いつか、必ず会いませうそれ迄、私は絶えません数えきれん悪意に傷つき、抱えきれん汚れを引き摺り、深く笑顔を抉られやうがいいで、それでもいいでから懲りずに、幾度も挑んでやらうと決めてんぞ不完全なまま未完成なまま解り合えぬまま嘘つきの儘のそういふ笑顔を貴様も見せてくらはいなここまで必ず来て這ってでも来てそうゆふ笑顔を私のもと迄。完結
tomio さん作 [379] -
非で不の未な感 (上)
嗚呼嗚呼嗚呼、誰かいん?嗚呼、嗚呼、嗚呼、ここにおん。無意識の海に漂う葉。似た価値観を探したのん自分を認めて欲しいがゆえに、ひらりひらひら虚勢を纏う未熟な果実の共有行為深く意味なぞ知らぬが当然自身を肯定するのも儘ならんならん隠した刃物棄てようとしてん震えるは指よ無理矢理に剥がせ漠然と不安消そうともがいたん別の命に刃立てても消え失せはせんわ愚かな幻影、好都合の幻聴、分泌液は自我の膿全体重、全自分を
tomio さん作 [384] -
NO SMOKING 4
次の日も、雨の日も、風の日も、最悪にツイてない日でさえ私の禁煙デイズは途絶えなかった。自分でも驚いていた。半信半疑だったKが、いや、全面的に不可能だと決めつけていたあのKが、狼狽え、唸るほど続いたのだ。とはいえその間も、何度もコンビニでチロルチョコあたりと一緒に『あと…』ってタバコも便乗買いしそうになったり、何とかそれをこらえてキシリトールガムで慰めたりしていた。その頃の私は不思議と口数が少な
tomio さん作 [461] -
不完全なスマイル
無意識のうちに似た価値観を探した 自分を認めて欲しいがゆえの虚勢を纏う。未経験な果実。共有する悦び知らなくて自身を肯定するのも儘ならない。隠したナイフ、棄てようとした。震える指を無理矢理剥がして。漠然とした不安 そのひとを傷つけても消え失せない幻影。力一杯感情を抑えつけたように本音もぶつけられないかな。ほどきたいだけ ほどかれたいだけ。それから嫌われるのが怖い。誰かの白が自分の黒だとしてもいいや
tomio さん作 [399] -
男女恋景 改札口
最後の最後の最後まで、男はズルくて鈍感だった。 改札口に入って、少しのところ。振り返った私に、男は白い歯を覗かせて手をふっている。ああ、本当にこれきりなんだ。確信したら、急に彼がひどく憎たらしく思えてきて、私は衝動的に駆け出していた。 我に返った私の前で、男の左頬が、うっすら赤く腫れている。 こんなはずじゃなかった。 キレイに『じゃあね』って終わるはずだった。“別れ際、私は男に軽くキスを
tomio さん作 [619] -
彼女と僕の朝
目が覚めると彼女はまだ眠っていた。階段をかけ降りて窓の外を覗く。そこらじゅうが白い。僕は彼女を呼ぶ。何度も呼ぶ。彼女が起きてくる。僕に優しくキスをする。ピリッとする。彼女と新聞を取りに外へ出る。僕も彼女も一緒にまっ白な道を踏む。ヒンヤリする。僕は昔を思い出す。暗くて四角い箱の匂い。ペコペコのお腹。近づく彼女の優しい声。眩しい光。冷たい空気。彼女の笑った白い息。上からフワフワ何かが落ちてきて、僕の
tomio さん作 [481] -
男の背中
貴方に何度、殺されたでしょう?何度、思い出したように掘り起こされたのでしょう?愛の墓まで追いかけてきてその嘘っぱちの塊を食べさせて私を救おうと仰るのですか?甚だ遺憾。愛の崖下を見下ろしてその見せかけのロープを、さあ掴めと私に差し出したりして?実に興醒め。もう私の胸に貴方の花など咲かせてやらない。何も取り除いてはあげません。奪うばかりのホースなど、さっさと、とっとと引き抜いてやる。それだけ申し上げ
tomio さん作 [428] -
アタシのバアイ 2
ねぇ、可笑しいんだ。あの頃のアタシは、アンタの笑い声が素敵って言ってたくせに。泣き顔見たくないって言っては、たしなめてたくせに。アンタの泣いてた声がね、うつ向いた横顔がね、今はすごく恋しいよ。なんだか今日はね、部屋でね、独りでね、灯りもつけてないし、時計の秒針がカチカチうるさい。聴こえてる?雨の音。闇に消えそうなくらい静か。ねぇ、アンタが泣いてるみたいでしょ。あの夜も雨が冷たかったねアタシが見つ
tomio さん作 [416]