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アイさんの投稿された作品が109件見つかりました。
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子供のセカイ。228
美香はそのことに関しては、ミルバを恨んでいた。子供のわがままではあったが、いっそ舞子の計画のことなど教えてくれなければよかったのに、と思ってしまったのだ。舞子を憎まないと決めたのに、その覚悟が確かにあったはずなのに……。(どう説得するか、なんて……わかるわけないじゃない。)城の攻略方法については、まだ曖昧ではあるが、少しずつ考えを詰めてきている。しかし舞子と再びあいまみえるところを想像すると、そ
アンヌ さん作 [436] -
子供のセカイ。227
しかし美香は、常に周囲へ視線を飛ばし、耳を尖らせながら、警戒を怠らないようにして歩いていた。美香たちはつい四、五日前、指名手配されたばかりの身である。王子とジーナが身代わりで捕まってくれたとはいえ、覇王がもっとも殺意を抱いているのは美香だ。美香は不意に、夜羽部隊の女隊員のことを思い出した。無情な赤い瞳は、ただ目標の美香だけを捉えて刃を構えていた。彼女たちとの死闘がくっきりと頭の中に蘇り、美香は胸
アンヌ さん作 [421] -
子供のセカイ。226
そして徐々に目撃される場所を限定していき、やがては覇王自らが出向くように仕向ける。その時こそ、美香と耕太がコルニア城へ侵入する絶好の機会だ。同時に、引き付け役のミルバは、覇王と正面から対決することになる……。ミルバは高くあごを上げ、日の沈んだ濃紺の空を見つめた。覚悟など、必要さえなかった。宵闇の中、ハントは頭痛を堪えていた。監査員の元へ計画の定期報告へ赴こうと、一つ離れた灰色の建物に向かって歩い
アンヌ さん作 [391] -
子供のセカイ。225
「……前支配者、ミルバだな?」背後から野太い声がかかる。ミルバは振り返らなかった。恐らく、後ろで槍を構えているのは、舞子が生み出した城兵部隊の一員だろう。二日前の夜、ミルバの分身の一人が夜羽部隊を相手に、あれだけ大立ち回りしたのだ。追っ手が放たれないはずがなかった。崩れた城を前にして、縦に並んだ二人の影が、夕日に背く方に長く伸びる。片方は小さく、片方は大きい。兵士は緊張していた。マントを頭からす
アンヌ さん作 [362] -
子供のセカイ。224
マントの下から知性を湛えた緑の瞳が、ゆっくりとなぞるようにスクルの城の輪郭をたどっていく。ミルバの脳裏をよぎるのは、膨大にして遥かなる時間。長い長い年月をこの城で過ごし、そしてその間に、数え切れないほど様々な出来事があった。“子供のセカイ”は波乱に満ち、危険と隣り合わせなことも多かったが、ミルバが支配者だった時代は、そのすべてをうまく取り仕切り、穏やかに日々は過ぎていった。ハントたち治安部隊がい
アンヌ さん作 [393] -
でん社会
ありがちな日々にgood bye空想を夢想する人間たちは仮想現実を食いものにして今日を生き繋いでいる虚ろな目をして機械の声に聴き入る少女四角い小さな画面で勇者になれる男言葉の魔術にからめとられ、異世界に迷い込んでいく社会人たち老人は杖をつき、未だ見ぬ場所をうたた寝の内に描く不機嫌な顔、怒った顔、笑った顔、寝ぼけ眼、への字に曲がった唇そんな世の中、そんな社会…を、形成する電車の中。
アイ さん作 [471] -
子供のセカイ。223
「どうだ、少しは仕事に慣れたか?」まるで部下を気遣う優しい上司のようである。王子は面食らって一瞬言葉に詰まったが、「おかげ様で…。」と、よくわからない返事を返した。「ボールが役に立っただろ?」「あ、うん、それはとても。今日もジーナの傷を回復することができたし。」「お前はこいつと馴れ馴れしくするな。それに、ボールはなるべく使うなと言っているだろう。」ジーナは苛々とパンをちぎり、口に放り込む。怒りで
アンヌ さん作 [364] -
子供のセカイ。222
治安部隊の若者たちは、広い食堂の壁際に等間隔に並んで立ち、囚人たちを見張っている。とはいえ、あの金髪碧眼の魂の分け身の少年が言ったように、強制労働施設の統治権はすでに彼らから離れているはずだから、ほとんど形だけと言っていいだろう。それを知ってか知らずか、五十人からなる囚人たちは、時折にやにやと笑いながら治安部隊の方を振り返り、意味ありげな目配せを交わしている。まるで、今や自分たちこそ治安部隊を見
アンヌ さん作 [382] -
子供のセカイ。221
「……しまった。声を透明にするの忘れてた。」耕太がごまかすように笑うと、美香は呆れてため息を吐いた。「問題はそこじゃないでしょ。あんなにたくさん兵士がいたら、絶対にすぐに見つかって捕まっちゃうわ。やっぱりミルバの言う通り、変身しないと。」「でも、声とか、その他諸々全部消せば問題ないだろ?」「どれだけ精神の力が削れると思ってるのよ。それじゃあ、いざって時に気を失っちゃうじゃない。」「あー、そうか…
アンヌ さん作 [347] -
子供のセカイ。220
「明日から、ちゃんとしなきゃダメね。」美香は舞子と共同で使っている子供部屋のドアに手を触れると、大きく息をついた。不安は拭えない。舞子を説得できる自信も、だんだんしぼんできている。(それでも、やるしかないんだわ。)もう後戻りはできない。美香の覚悟云々より先に、美香の立つ背後には平和に暮らす“真セカイ”の人々がいるのだから。それからの四日間は、美香、耕太、王子、ジーナにとって、もどかしく、焦燥に駆
アンヌ さん作 [365]