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砂春陽 遥花さんの投稿された作品が39件見つかりました。
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MLS-001 018
※お詫びと訂正※ご一読ありがとうございます。前回の投稿で016話が2つありました。「晴牧は…」から始まる方が正しくは017話です。すみません。--------------遠く東の空は白み始めたが森の中は暗い。3人の頭上に下がる電球が一つ、一瞬強い光輝を放って音もなく切れた。晴牧は涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔をあげた。自分をじっと見下ろす花鼓の目に気付き、苦笑いする。「見苦しいところをお見せして、す
砂春陽 遥花 さん作 [670] -
MLS-001 016
晴牧は、花鼓の顔と地面に転がる棒を幾度も見比べ、悲痛な声を出した。「お、俺が、俺がやったのか。」花鼓の血で濡れる地に膝をつき頭を抱えた。腕の間からうめき声がもれた。晴牧を見下ろす花鼓の目は地面に打ち捨てられた金属の棒さながらただそこにあるだけだった。壊れたところ、治さなくっちゃ。花鼓はズキズキと痛む腕を見た。裂けた皮膚と潰れた肉の間から数本の白い導線と銀白色の骨格がのぞいている。左手で拳を作ると
砂春陽 遥花 さん作 [757] -
MLS-001 016
薄れゆく意識の中、花鼓の思考は錯綜していた。唯一の…何?唯一の肉親。肉親?お母さんは?お母さん?お母さんは誰?垣口 来実子。来実子?来実子って誰?私を愛してくれる人。私?私は誰?花鼓の意識にかかる白い霧は一層濃くなった。その白濁した意識の上に碁盤の目が浮かび上がる。目の上には3つの点が光っている。赤が1つ、白が2つ。赤が私。白が棒を持った男と真龍。横に『011』と書いてある方が真龍。書いてない方
砂春陽 遥花 さん作 [695] -
MLS-001 015
車を降りると風が吹き、木々がざわめいた。真龍に即され、花鼓はわずかに開いたシャッターの隙間から、真っ暗な倉庫の中に身体を滑りこませた。中に入り、数歩歩くと灯りが点いた。上を見上げると、鉄骨で組まれた天井に二列に下がっている照明のうちの一列が点いていた。突然、花鼓の後頭部に激痛が走った。身体が地面に倒れ込む。ざらざらしたコンクリートの床で足が擦れ、血が滲んだ。花鼓が驚いて後ろを振り仰ぐと、いつの間
砂春陽 遥花 さん作 [688] -
MLS-001 014
月がどこまでも追いかけて来る。疾走する黒い車の中。花鼓はマジックミラーになっている後部座席の車窓からこうこうと輝く月を見ていた。薄暗い沿道の街並みを溶かした藍色の窓ガラスに、月だけが浮かび上がっている。「私は反対したのよ。」夏を目前にしながら、大気は深々と冷えていた。「あんな乱暴しなくても貴女なら付いて来てくれるもの。」花鼓は月を見上げたまま動かない。花鼓と真龍。二人の間、わずか十数センチに冷た
砂春陽 遥花 さん作 [700] -
MLS-001 013
大男の影に小柄な人影が見える。女だろうか。ビンヒールの靴で蹴られたらしく明広の下唇は派手に切れていた。多勢に無勢でも諦める訳にはいかない。早くしないと彼女、遠くへ行っちゃうわよ。女の声が明広の耳に蘇る。巨体を前に、策などない。でも、何としてでも花鼓を取り返したい。明広はよろめきながら立ち上がった。無謀と分かっていながら自分の全エネルギーを掛けて花鼓のところへ真っ直ぐ走った。2メートルの巨体が迫っ
砂春陽 遥花 さん作 [735] -
MLS-001 012
暗闇に響く轟音。花鼓と明広はガラスが砕け散る音で目を覚ました。花鼓は、とっさに布団を顔の近くまで引き上げ、明広は素早くベッドから飛び降りた。窓ガラスの破片が花鼓の布団の上一面に散らばっていた。枕元にも大きな欠片が二枚、三枚と落ちている。顔にあたらなかったのは運がよかったと言う他ない。割れた窓の前に2メートル近くある大男がのっそりと立っていた。星の見えない空をバックに、街の灯りが、男のいかつい肩と
砂春陽 遥花 さん作 [659] -
MLS-001 011
「昨日の人。」「いや、そういえば少し似てたかな。親子かな。」自分の突拍子もない考えに笑った明広は、花鼓のひどく深刻な表情に驚いた。あの子と何かあったのか。慌てて話を続ける。「そいつが、早く花鼓のところへ行けって言うんだ。」早くしないと彼女、遠くへ行っちゃゃうわよ後半の女の台詞は、伏せておく。自殺を図ったときのことを覚えてないの、と言ってうつむいた花鼓の姿がまだ瞼の裏に残っていた。「今日一日、見舞
砂春陽 遥花 さん作 [990] -
MLS-001 010
2階、一般病棟215号室。窓際のサイドテーブルの上で今日一日の日光を吸った赤いバラ。その甘い香りが部屋中に充ちていいた。明広の言った通り、あおあおとした葉の生命力と深い花の香りは、花鼓に元気をくれる。花鼓は、日がな一日、問いかけの意味すら分からない問いの答えを一人で探していたが、今日は来ないに違いないという、自身も飽きれるほど安易で楽観的な考えに到達しただけだった。ただ、考えれば考える程、平穏な
砂春陽 遥花 さん作 [670] -
MLS-001 009.5
駅前のアパートの一室。殺風景な六畳半の1Kにソファが一つ、ベッドが一つ、小さなガラスのテーブルが一つ置かれている。どうしてあんなこと言っちゃったんだろ。真龍はソファに寝転がって街頭の明かりのせいで星の見えない夜空を眺めていた。理由は分かりきっている。初めて会いに行った、たった一つの姉さんの形見が、自分の全然知らない男と幸せそうにしてたから。これも嫉妬って言うのかな。機械相手なのに、ね。ベッドに飛
砂春陽 遥花 さん作 [723]