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砂春陽 遥花さんの投稿された作品が39件見つかりました。
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MLS-001 009
「そこまでして愛されたいの。」侮蔑と憎悪のこもる声だった。「家族に彼氏に友達に捨てられないか、逐一びくびくして、ばっかみたい。」言葉を吐く度に少女の息が激しく花鼓の顔にかかる。閉じたり開いたりするみずみずしい唇を花鼓はぼんやりと見ていた。「最後の一体がそんな風じゃ、死んだ博士が泣くわね。」真龍は微動だにしない花鼓にあきれて顔を離した。乱れた黒髪を手で整える。目の前の哀れなモルモットはじっとこちら
砂春陽 遥花 さん作 [686] -
MLS-001 008
扉が開き、カーテンごしに長い髪の女性の影が見えた。「お母さん。」花鼓は呼び掛けたが、返事はない。「こんにちは。」若い女性の声がして、カーテン裏から影が本体を現した。長い黒髪の少女。モノクロの花柄のワンピースが細い体を更に細く見せる。「こ、こんにちは。」どもる花鼓に少女はいきなり飛びついた。「花鼓、花鼓だよね。もう会えないかと思った。」ぎゅっと強く抱きしめられた。肩の上ですすり泣く音さえする。誰だ
砂春陽 遥花 さん作 [712] -
MLS-001 007
赤いTシャツに白いジャケット姿の青年は、窓際にあった椅子を引いてきて花鼓の傍らに腰を下ろした。さっきまで来実子が座っていた席だ。「私、覚えてないの。あの日、何があったのか。」青年は花鼓のすぐそばで、息を殺して続きを待っていた。「私が何をしたのか。」息を吸い込むと甘い香りが口の中まで立ち込める。「どうして、したのか。」「動機が思い出せない、か。」途端、明広は大げさに腕を組みにやにやしながら言った。
砂春陽 遥花 さん作 [700] -
MLS-001 006
花鼓のいる病院。一階ロビー。真龍は正面の玄関から堂々と入った。長く艶やかな黒髪が颯爽と歩く肩の上でゆれる。待合室に座る幾人かがふり返り、のぼったばかりの朝日を受けた朝顔のようにわずかに顔を輝かせた。小さくとも花をみると、人は、和む。人混みの中に入って行くときいつも見るこの反応に、真龍は一種の生きがいを感じてた。ただ、早朝の混み合う待合室。振り返る余裕のある者は数えるばかりだった。病院特有の内にこ
砂春陽 遥花 さん作 [744] -
MLS-001 005
2階、一般病棟215号室。二人っきりになると花鼓が口火を切った。「ごめんなさい、お母さんったら変なこと。」明広は何も言わない。「明広のせいだなんて、思うはずないじゃない、ね。」花鼓は点滴のついている左腕に目を落とした。点滴台の上で一点の濁りもない透明な液がぽたっ、ぽたっと時を刻んでいた。「これ、お見舞い。」俯く花鼓の膝の上に、明広は持って来た花束を置いた。みずみずしい赤と緑のコントラストが目に飛
砂春陽 遥花 さん作 [803] -
MLS-001 004
花鼓の居る病院の向かいのビルの屋上。一人の少女が艶やかな黒髪を風になびかせている。真龍は、腰丈しかない柵に半身を預けて空を見ていた。足元に置かれた白い鞄の中で携帯電話が鳴った。「真龍か。」「うん。」名乗るより早く畳みかけられた。薄い携帯の向こうで、小刻みに揺れる肉の塊が見える。「大丈夫。今日はちゃんと仕事、してる。」気が急くと貧乏揺すりをするのが晴牧の癖だ。「期限が迫っている。分かっているな。」
砂春陽 遥花 さん作 [762] -
MLS-001 003
3日後花鼓は病室を移った。2階の一般病棟215号室、一人部屋。病室を移って一番最初に面会に来たのは明広だった。マスクも心電図もとれて晴れ晴れとしていた花鼓の顔に影が射す。「ごめんなさい。」戸を閉めるなり明広は深く頭を下げた。「明くん。」来実子が驚いて声をあげた。ベッドサイドの窓から吹く春風が明広の真っ直ぐに垂れた前髪を揺らす。「違うの。私が、」悪いの。と言いかけて、花鼓は口を閉じた。覚えていなか
砂春陽 遥花 さん作 [767] -
MLS-001 002
激しい痙攣と突然の意識消失。闇、また闇。急ぎ駆けつける医師と看護士。追い出されるように病室を出た来実子は喧騒の外で一人、唇を噛んで鉛色の不安と闘っていた。重い心を支える膝が震えた。廊下の大きめの窓から差し込むうららかな春の日差しも、窓の下に設えた棚の上の青いガラスの花瓶に生けられた色とりどりのガーベラも、目の前の出来事は見て見ぬふりをしている。やがて、辺りに張りつめた緊張の氷は少しずつ溶け始め、
砂春陽 遥花 さん作 [907] -
MLS001 001
白い天井。白い蛍光灯。白い壁。耳障りな規則正しい電子音。息をすれば目の下でマスクが曇る。花鼓は病院のベッドの上で目を覚ました。背もたれもない椅子の上で母がうたた寝をしている。かくっ、かくっと落ちる頭が、転げ落ちないギリギリのバランスを保って止まる。ああ、危ないと思い、起き上がろうとするも花鼓の上半身は鉄の塊のようにピクリとも動かなかった。虚しい抵抗を試みた左腕が、細い管を使って点滴台の先端で透明
砂春陽 遥花 さん作 [1,079]