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沖田 穂波 さんの投稿された作品が90件見つかりました。
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人斬りの花 20
3-7 香椿は抄司郎の師匠の居る長屋へ身を隠した。師匠は抄司郎達の事情を知って親切に迎え入れた。『抄司郎があんなに必死になるとは,珍しいの。』抄司郎が見回りに出掛けたのを見計らって,師匠は言った。『そうなんですか?私は抄司郎さんにお世話になってばかりです。本当に迷惑をかけてしまって‥』『あの子は,とても優しい子だ。迷惑などと,これっぽっちも思っちゃいないだろうよ。』師匠は椿を改めて見た時,急に顔
沖田 穂波 さん作 [347] -
人斬りの花 19
3-6 香†武部の手下達は,家中を探し回っている。裏口から逃げる際に見つかったのだろう。一人,抄司郎のあとを付ける者が居る。― 困ったな。救った者の面倒を最後までみる事を,全うしたい抄司郎は悩んだ。武部のもとを離れた今,むやみに剣を抜くことはしたくない。相手の出方次第だと思った。椿はまだ付けられている事に気付いていない。何かを気にしながら歩く抄司郎に,椿は不安げな顔をして言った。『抄司郎さん,一
沖田 穂波 さん作 [381] -
人斬りの花 18
3-5 香抄司郎は柳瀬屋へ戻った。女将のトシは,帰って来た抄司郎を見るなり,『旦那,大変だよ!』青い顔をして駆け寄った。『おっかない妙な連中があの子を探している。今さっき,うちに訪ねて来たんだよ。』あの子とは,椿の事である。武部の手下が椿の居所を掴んだようだ。『それで,連中は?』『必死になって追い返したよ。だけど‥』武部が簡単に諦める筈がない。絶対に再び現れると,抄司郎は予測した。『連中に椿さん
沖田 穂波 さん作 [375] -
人斬りの花 17
3-4 香師匠は,訪ねてきた抄司郎を快く迎え入れた。平太の言った通り,年のとった顔を更にくしゃくしゃにし,抄司郎の手を取り大いに喜んだ。『抄司郎,わしはお前に会える日を夢にまで見たんだぞ。』合わせる顔がなかった。自分が武部から離れたせいで,師匠は金を奪われ,道場が潰されたのだ。『師匠に,謝らなきゃならない事が沢山ある。』『謝る事?』師匠は抄司郎に自分で入れた茶を勧めた。抄司郎は,重い口を開いた。
沖田 穂波 さん作 [397] -
人斬りの花 16
3-3 香師匠は早くに両親を亡くした抄司郎を,我が子のように可愛がり厳しく師事した。というのは,師匠には子がいない。嫁の結は病弱で,子が産めなかったのだ。だから,この身よりの無くなった抄司郎を引き取り,大切に育てた。いつの間にか,抄司郎も二人を実の親のように思うようになっていた。抄司郎が道場を去ってから二ヶ後,結は死んだ。病の悪化が原因だ。師匠は遂に一人になった。いや,その時はまだ道場に門弟がい
沖田 穂波 さん作 [375] -
人斬りの花 15
3-2 香抄司郎は,柳瀬屋の前で妙な男達とすれ違った。だが今は,椿の明かした過去の事でいっぱいで,そんな事を気にしている余裕などない。行く宛はないが,足早に町を歩いた。風にのって威勢の良い掛け声が聞こえる。近くに道場でもあるのだろう。抄司郎は目を閉じて,まだ純粋に,剣に励んでいた頃の自分を懐かしんだ。『抄司郎じゃないか!!』1人の男が肩を叩いた。『‥お前は。』『嫌だな。忘れたのか。平太だよ。よく
沖田 穂波 さん作 [408] -
人斬りの花 14
3-1 香『この傷跡は‥』椿は自ら語り出した。『四年程前,辻斬りに襲われた時のものです。すみません,どうも気になっているご様子でしたので。』『辻斬り‥』その辻斬りは自分だと,言える筈もなく,抄司郎はただ黙って椿の話を聞いていた。『その時,唯一の父が,私を庇うように,たった一太刀で死にました。相手は,余程腕が立つ剣客でしたけど,どこかに迷いがあった。』『‥迷いとは?』その時の事を思い出すように,椿
沖田 穂波 さん作 [391] -
人斬りの花 13
2-8 椿『どうしたの,そんな怖い顔して。』帰って来た抄司郎を見るなり,柳瀬屋の女将のトシが言った。抄司郎は武部とのやり取りがあってから,虫の居所が悪い。『五月蝿い。ほっといてくれ。』トシから顔を背けた。やはりこういう時,トシの優しさを素直に受け止められない。『つれないねぇ。』と溜め息をついてから,『あ,そうそう。あの子の目が覚めたよ。あんたに礼が言いたいそうだから,早く行ってやんな。』トシは抄
沖田 穂波 さん作 [375] -
人斬りの花 12
2-7 椿『そうか討ち取ったか,ご苦労だったな。』抄司郎は,武部に大海屋の京右衛門が死んだ事を伝えた。それを聞いた武部は機嫌良く話し始めた。『あとは石澤の娘さえ死ねば我が商いも安泰だ。お前の仕事もようやく一段落する。どうだ,まだ娘は見つからんのか。』『‥はい,未だ。』武部には,まだ刀傷の女の事は,伝えたくなかった。伝えれば,例え女が別人であろうと,斬れと言うはずだ。『やはりな。だが安心しろ,この
沖田 穂波 さん作 [404] -
人斬りの花 11
2-6 椿女の目が覚めたのは,ちょうど太陽が昇りかけた頃だった。― ここはどこ?見慣れない景色に女は微かに恐怖を覚えた。だが,挫いた足が丁寧に手当てされているのを見ると,危ない所ではないのだと確信できる。『あら,目が覚めたようだね。』ちょうど女の様子を見に来た旅籠屋の女将,トシが言った。『ここは柳瀬屋。旅籠だよ。あんた,何も覚えてないのかい?』『‥確か,お侍さんにおぶってもらって‥。』トシの気さ
沖田 穂波 さん作 [367]