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ニコル さんの投稿された作品が10件見つかりました。
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AとB
それは、Aの唐突な問い掛けから始まった。「君は死ぬとは何か解るかい?」なぜAがこんな問いを持ち掛けるのか、そんなことはBにとってどうでもいい事だった。なぜならAのこの手の問いは、Bにはもう日常茶飯事だったからだ。しかし今回のそれは、Bにとっていつもに増しての難題だった。Aはそれを察したかのように、質問を変えた。「それじゃあ、君は死んだことはあるかい?」「いいや。」「一度もかい?」「もちろん。」B
ニコル さん作 [837] -
夕焼け〔終〕
並木道には、すぐ近くの工場の煙からの淀んだ風が吹き込んできていた。「昔はここいらにも、もっとたくさんの木々が生えていたんだ。」おじいちゃんが僕に語りかける。辺りを見渡すと、無造作に建てられたビルや住宅地が目に入った。見上げると、空ではちょうど太陽が沈み始めていた。真っ赤に染まった空の真ん中には、淀んだ空気が重なり、黒くかすんだ夕日がぽっかりと浮かんでいた。「俺は夕焼け空が大好きだったんだ。」おじ
ニコル さん作 [400] -
夕焼け〔4〕
僕は何気なく、おじいちゃんに池で飼っていた鯉の事を尋ねた。「あれは本当に立派な鯉だった。思えば40年も生きたんだ。仕方ないことだったんだ。」おじいちゃんはそれだけ言うと、池の方へ目をやって少し寂しそうな表情をしていた。その後、二人の間にしばらくの間沈黙が続いた。「散歩にでも行くか?」沈黙を破ったのは、おじいちゃんのこの一言だった。突然の言葉に驚き、僕は父さんたちの方へ目を向けた。父さんたちは小さ
ニコル さん作 [343] -
夕焼け〔3〕
順平の家へ着いた僕らを迎えてくれたのは彼の父親だった。一通りの挨拶を終えた後、僕は真っ先に縁側へと向かった。そこにはずいぶんとやつれたおじいちゃんが、昔と同じように庭を眺めながら腰掛けていた。どう声をかけるべきだろうか?おじいちゃんは僕の事を今でも覚えているのだろうか?数々の不安が頭に浮かんでくきた。5年という月日は僕にとって思いのほか重たかった。僕はしばらくそのまま無言で立ち尽くしていた。不意
ニコル さん作 [345] -
夕焼け〔2〕
数日経ったある日、僕と父さんは「あのこと」で順平の家を訪問することになった。父さんの話によると、おじいちゃんは病院を一時退院して、余生を家族や親友と過ごすつもりだと言う。僕にとっては思いがけないところでもう一度おじいちゃんに会う機会がやってきた。順平の家へ向かう途中、僕は当時のことを思い出していた。小学校入学して間もなかった僕は、学校帰りによく順平の家に遊びに行ったものだった。おじいちゃんは決ま
ニコル さん作 [370] -
夕焼け〔1〕
見上げるとそこには真っ赤な夕焼け空が広がっていた。川沿いの並木道にはいつもと同じ秋の匂いが吹き込んでいる。「順平のとこにおじいちゃんがいたの覚えてるだろ?」不意に父さんが話し始めた。順平とは僕がとくに仲のよかった幼なじみのことだ。僕が小さく頷くと父さんは話しを続けた。「あの人がどうやら厄介な病気にかかってしまってな、もういくらも生きられないようなんだ。」「ほら、おまえあの人にはずいぶんお世話にな
ニコル さん作 [403] -
道
ただひたすらにそこだけを目指している誰かに言われたでも自分で決めたでもないただ進み続けるしかない立ち止まればそれで終わりこれまで何人もの敗者たちを見た上では輝く星がわかったような目で見下し下では何も知らないあいつらがつまらない現実を押し付けるわかっていた先には何もないことをそれでも進んだただその先を目指してそしてたどり着いた先はただの終わりだった
ニコル さん作 [385] -
ボロギター
年末の大掃除の日何の気無しに押し入れ整理をしていた僕は埃をかぶったエレキギターを見つけた僕はふと青春時代のことを思い出した…SexPistolsThe Clash20th Century BoyThe Beatls当時の僕が夢中だった数々のロックが頭の中を駆け巡った…あの頃から数十年50代半ばを通りこしてボロアパートで一人テレビをつければインスタントな音楽が左から右へと無造作に鳴り響く…不意に僕
ニコル さん作 [377] -
ブランコ
気がつくと僕は公園のブランコを揺らしていた「もっと高く、もっと高く」僕を取り囲む傍観者たちは口々にそう言う僕は言われるがままにブランコをこいだ「もっと高く、もっと高く」彼らの声と共にブランコは少しずつ大きく揺れ始める「もっと高く、もっと高く」次第に景色が僕のまわりをぐるぐると回りだしたこれまで見ていた景色が全く違って見えた「もっと高く、もっと高く」ちょうどブランコが頂上に達したときそこには逆さま
ニコル さん作 [799] -
20才
大切な命なんて言ってみてもそうたくさんは必要じゃない例えば戦争で何万人が死んだら誰も死んでいった一人の名前なんて呼ばないそれが恐いこと同じように進むべき道が増えるほど現実はより現実味を増すそれなら僕にとって空にはたくさんの星はいらないんだ見上げる夢は一つで十分だから
ニコル さん作 [418]
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