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京野 さんの投稿された作品が16件見つかりました。
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0224
あなたは何によって動く?喜びか、それとも悲しみか。怒りか、それとも苦しみか。むなしい日々に、からだに這い寄る、不定形の不穏なマボロシ。あなたはそれを何という?ああ、それを、欲しいのか。
京野 さん作 [407] -
0207
鬱蒼とした山奥にある、おそろしいほど清潔な白い物。晴れた日の、(優しさと品位を取り戻す)和らぎはじめる午後2時に、ようやくまた美しい輝きと、厚かましい春の日を照り返そうとする白い壁。冷却用の雨にもなれば、ガラスよりもよく滑り、鏡よりもよく映す。そうして、はるか彼方から、動物のまきあげた土ホコリが、湿った風に吹き飛ばされてきて以来、ぽつりぽつりと屋根にあたる音がする………彼は、差し迫った、上機嫌な
京野一 さん作 [458] -
唄う手紙
恋に頷くと君から揺れる切ない横顔落ち葉をそっと握りしめる長雨の時間初めの記憶もぼんやりした後の記憶も浮かばれるものはやっぱり溶ける氷の涙鳴り響く重々しい鐘の音が今やっと鋭く胸を脅かすなのになぜまだ続けるつもり?届きはしない「恋する手紙」孤独のうちに見える一つ一つの陰影そのすべてに人々を救う優しい意味があるその場所へ だから行きたい 独りになりたいたとえ誰が顔の消えてしまおうとも...鳴り響く重々
京野一芽 さん作 [385] -
朝野と夢野──本来の自分──9(終)
どうしてだか気分が沈む。なんと明日はB子ちゃんとのデート紛いな一日というのにだ。それをこうして、飛ぶ間際の鳥を襲った毒蛇のように、おれの浮き立つ心を押さえつけるものは何なのだ──事件か、災厄か、病気か、凶兆か、疑惑か、怒号か、欷歔(ききょ)か、紛争か、苦悶(くもん)か、絶望か、血か、汗か、涙か、夢野か。・・・・・・鉛色の空。誰かの、囁(ささや)くようなか細い声が、ぼくには聞こえてくる。「怒鳴られ
京野一芽 さん作 [381] -
朝野と夢野──本来の自分──8
とても切なく、ぼくの記憶に花の残像が刻まれていく。橙(オレンジ)の色は落ち行くごとに鮮やかさを失って赤黒くなっていった。くすんで暗く、生気がない。それはナイフを突き立てるようだ。ナイフを抜き取ったときの飛沫(しぶき)は以前のように、ぼくを奮い立たせることができるだろうか。「過去」「現在」「未来」すべての言葉が重苦しい。こういうぼくは、大地震で倒壊した家屋に下敷きにされ、そのうえ重々しく降ってきた
京野一芽 さん作 [362] -
朝野と夢野──本来の自分──6
はあ! やっとあのいかさまな門の密集地帯を抜けられた。右に門があれば左に避(よ)けて、左にあれば右に避ける、両側にあればトラックが来ないうちに走り抜ける、こういう情けない行動はおれの好むことではないのだが、何とはなしに我慢して進んできた。今は、ざわざわと不気味に音を立て続ける長くのびる林と、それに吸い込まれていくようなまばらに散在する粗末な家とに、押しつぶされてしまいそうな、さっきよりもこぢんま
京野一芽 さん作 [357] -
朝野と夢野──本来の自分──5
概してぼくの三半規管は正常に機能しているのかわからない。というのは、結局はうまくバランスを保つものの、その事前には必ずピサの斜塔のように傾いているからだ。ぼくを健常者として見ている多くの人々は、ぼくをちゃんと見ていなかったり、ほとんど無き者にしていたり、たとえ見ていてもぼくが直立しているときにだけそうしていて、危うく倒れそうになっているときには別のことにかまけていたりする。つまり、そういったこ
京野一芽 さん作 [348] -
朝野と夢野──本来の自分──4
あまりにも部屋の中で鬱屈(うっくつ)していると表情も何も曇ってしまうので、ぼくは時折窓から景色をのぞき見るようにしている。残照も月も星も消えた夜からは、耳を澄ませば悲哀を感じさせる物静かな雨音がいつでも聞こえてくるような気がする。けれども風──時を含み持ち、自身が流れることでもってそれを流し、またその連鎖で水をも流すもの──が吹いていることでなんとか気晴らしにはなる。視線は、いつしか点いた蛍光灯
京野一芽 さん作 [340] -
朝野と夢野──本来の自分──7
夜、ビルの屋上に突風が吹くと手に持っていたノウゼンカズラの花が、勢いよくまるでフリスビーのように十メートルほど前方の宙に飛んでいき、それから旋回し少しだけ戻ってくると、急速に力を失った。ぼくは、反射的に後を追っていった手をゆっくりと引き込めながら、心の中で「もう二度と帰ってこないんだ」と、確かめるかのようにささやいた、「鮮やかな色彩も、褒めることのできない臭気も」。そうして、午前中の残暑の熱が
京野一芽 さん作 [485] -
朝野と夢野──本来の自分──3
猫は、月の無い夜でも、そのわずかな光を目の中で反射し活用することで、五里霧中の状態に陥らなくて済む。朝野くんが眠ってからまだ三十分と経(た)っていないのに、もうぼくにはこの場所が、さわやかな朝日が差し当たるベッドの下の真っ暗な空間にしか見えていない。残念なことにぼくは猫の目の能力を有していなかった。猫の真似をして、いたずらに黒目を大きくするばかりだ。これでは頭もぶつけかねない。 おい、おまえ!
京野一芽 さん作 [347]
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