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彼の恋人

[384]  高橋晶子  2006-12-10投稿
県立・修学館高校は、藩校を起源とする事から、地元の住人から「藩校」の愛称で親しまれている。学校も生徒も伝統に囚われない自由な雰囲気に満ちている。三本ラインに赤いネクタイのセーラー服は、前見頃をホックで留めるタイプの学ランとの相性が良く、なかなか可愛い。
普通科の3年生である松風博文は、修学館に入って早々一目惚れした濱野谷臨(のぞむ)と同じクラスになっただけで至福に浸っていた。だが、二人の接点は、博文がサッカー部の練習の合間に、剣道部の練習に励む臨の姿に胸をときめく程度。つまり、博文の完全な片想いである。そんな状況が一転するのは、意外なきっかけがあった。
1年の時だった。今村裕介と森孝政は、博文とは小学校からの腐れ縁だ。長身で格闘派の美男子で女子に人気のある裕介に対して、孝政はやや小柄なデブで醜男。ロマンチックな性格の孝政は、同級生のいじめの対象だった。あだ名は「デブ男」で、持ち物を隠されたり、人前で服を脱がされたりと可愛い内容だったが、学校を休む事はなかった。いじめに勝つには勉強以外にないと思ったからだ。しかし、努力が実り修学館に入った後もいじめは続いた。孝政をいじめた連中が、公立高校に落ちて渋々桜庭学園に入ったウサ晴らしとして孝政をいじめ続けているのだ。下校時に孝政を捕まえ、公園でリンチを加えるのが連中の常套手段だ。その日も、孝政は桜庭学園に入った連中にいじめられる。親友の危機を放っておけなかった博文は、恋心を抑えて臨に援軍を求めた。実は、臨の中学時代の同級生が孝政のいじめに加勢しているのだ。裕介も援軍に加わり、いじめの場に使われる公園の茂みに待ち伏せする。案の定、孝政が連中に捕まってしまった。臨の姿に気付いた連中が詰め寄る。
「何で? 何でお前が此処にいるの?」
「修学館に落ちたはらいせに、モーリーをおもちゃ扱いしちゃって。本当に弱いのは自分達だって認めたくないくせに、何強い者ぶってんのかしら?」
孝政は親しい仲間から「モーリー」と呼ばれていたため、孝政を愛称で呼ぶ臨に博文と裕介は驚いた。博文と裕介が押さえた証拠を突きつけられた連中は、後日、学校で厳しい処分が下された。この一件以来、博文達と臨の間に友情が芽生えた。出身校の垣根を越えた友情は、恋心にどう影響したのか……?

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