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彼の恋人

[416]  高橋晶子  2006-12-11投稿
孝政へのいじめの一件で、臨は博文達と意気投合し、噂を聞き付けた斎藤千聖(ちさと)と鈴木佳純が仲間に加わった。
腰まで伸びた髪をポニーテールにした千聖は、みくと同じ眼鏡っ子でも機械的な印象を与える。理数科で趣味が機械いじりと聞けば、仕方ないのかも知れない。
佳純は肩にかかる髪をブロンズにして、二つに分けた束を耳の後ろで内側へ巻き遅れ毛を上にしてピンで留めている。競ってお洒落をする雰囲気のない修学館に私服で通う理由は、修学館には「夜の学び舎」というもう一つの顔があるためだ。
定時制高校は、早くして働く者に学びの場を提供する本来の機能を飛び出し、不登校経験者を受け入れる所が徐々に増えてきた。佳純は、自身の身体の変化に深く苦しみ、定時制高校に流れ着いた経緯があった。昼間は駅前通りのコンビニで働き、夜は定時制で勉強するのが佳純の日常だ。
不思議な事に、学年で一番の美女と言われる臨を巡り男同士が争う事はない。ややクセのある髪をクリップで留めた、才色兼美の女剣士を彼女にしようと目論む男子は山ほどいるからだ。そんな調子で仲間を交えた友情が深まるにつれ、博文の臨への恋心は忘れていった。
普段はすれ違いが多いからこそ団結力が強くなる6人が一同に揃うのは月に1〜2度。駅前のファミレスが仲間の溜まり場だ。佳純が、模試で一息ついた5人を待つのが常である。
「佳純さん、僕達の愚痴に付き合って貰ってるみたいで、毎度済まないねぇ」
「モーリーったら皮肉を言うんじゃないよ!」
以前の孝政にはあり得なかった皮肉な噛みつきだった。
揃って飲み物を注文して、他愛のない会話で時間を潰す。そんな時に発した佳純の言葉が博文と裕介と孝政を凍らせた。
「桜庭学園って、恋愛駄目、寄り道駄目、予備校駄目で滑り止め校でしょ。それで生徒はやる気のない人と『大学こそは志望校に行きたい』人の両極端だから、そんな空気に馴染めない人が1〜2年で見切りを付けてウチに転がって来るんだ」
博文達は、修学館に入れる成績でありながら桜庭学園しか受験を許されなかったみくを思い出してしまった。博文は思わぬ事を口に出した。
「桜庭に進んだ中学の女子の妹がウチの英語科を受けるらしいよ」

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