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愛された記憶 2

[452]  サチ  2006-12-12投稿
その日父は、職場の人達と食事に行き、いつもより遅い帰りだった。帰宅後間もない様子の父が「幸子、起きなさい!」と体を揺する。眠りに着いたばかりの私は「な〜に?こんな時間に…」と薄目を開けて父を見た。真剣な眼差しで「早く起きて!ばぁちゃんが倒れた。」「そんなはずないよ。さっきまで一緒に…」ぶつぶつ言いながら目をこする。次の瞬間、「お父さん〜居ないの!お母さんが居ないよ〜!」とドタバタ廊下を走る兄の声。えっ?この数時間の内に一体何が起きたの?私の頭はパニック状態で動けない…事の真相はこうである。私達を寝かせた後の母は、置き手紙を残し裏口から家を出て行った。最後の家出となる。それに気付いた祖母は、父の帰りを待ち、二人で話しをしている最中、トイレへ立った。よたよたと出て来たのだが、そのまま、兄の寝ている布団へ、バタン…と倒れ込んだのらしい。驚いて飛び起きた兄が報告へ行った母は既に居なくなっていて、全てを一度に聞かされた私は、震えが止まらなくなっていた。鼻から出血しながら横たわる祖母に震えながら近付く。「ばぁちゃ〜ん」震えた声で叫ぶと、祖母は私の手をしっかり握り、「大丈夫。大丈夫だよ…」と言った。大丈夫なはずが無い。間もなくやって来た、救急隊員が父に、「脳に異常が認められる為、動かせない…救急車も低速度で走らせます。」などと話しているのだから。とにかく急いで着替え病院へ行く支度をした。外へ出ると、救急車が待っていた。それを見た瞬間、又、身震いがした。その時の私達には、母が家出をした事は、もう考える余地も無く、ただ祖母のことを祈る思いでいた。病院へ着くと、夜間の為、ほとんどの電気が消された廊下をタンカーに乗せられた祖母が検査室へと移動する。その後ろを父に寄り添い兄と私が付いて行く。薄暗い廊下の長椅子に三人で腰掛け、検査が終わるのを待っていると、震える私達を気遣い、「大丈夫だよ。ばぁちゃんは必ず助かるよ。」と父が私達を抱き寄せる。入院の準備などで一旦、家に戻った時、父は覚悟していたのだろう。私達の学校への連絡や親戚への連絡を済ますと、「少し寝ておくように。」と言い残し出掛けて行った。母を捜しに行ったのだろう…と私は思った。一眠りした私達は再び病院へと戻る。少し落ち着いたかのように見える祖母は、身動き一つせづに眠りに着いていて、午後になると、父方の叔母達が遠くから駆け付けて来た。

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