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彼の恋人

[497]  高橋晶子  2006-12-12投稿
桜庭学園の生徒は、2年生に上がると進学クラスと就職クラスに分けられる。大学に行きたい人は前者を選び、やる気のない人は後者を選ぶのが当然の流れだ。進学クラスには難関校志望者向けの選抜クラスがあり、進学希望者の中から選抜試験にパスした人が選抜クラスに分けられる。
選抜クラスの生徒の中にみくの姿があった。みくにとって、自分を人形扱いする親へのアンチテーゼが大学受験である。大学こそ希望通りに入れば、親も博文も認めて貰えると思うからだ。妹の名波は修学館の英語科に入ったので、余計に負けられない!
ただ、ここ数年の間問題になっているのは、増える一方の退学者と減る一方の入学者である。一学年定員120人の小さな私立高校は毎年100人前後の生徒が入学し、卒業する時には約10人もの生徒が退学しているのだ。選抜クラスの男子が溜め息をつく。
「呆れて何も言えないな」
小林暁(ぎょう)は、ガッチリした体格で真面目な眼鏡男―彼も修学館に落ちて泣く泣く桜庭学園に入ったクチ―だ。暁の愚痴に就職クラスの男子が応える。
「面倒見が良すぎる学校と、両極端な生徒に馴染めない人に呆れてるんだね? 早目に辞めてくれて却って良かった」
橋本惇は、レイヤーボブで軽い性格。就職クラスのムードメーカーである彼は、何故か暁と仲がいい。
日々の学習を確実にこなせば一流大学への進学も難しくない、という考えが根本にあるため、桜庭学園では予備校要らずの進路指導を実践している。「先生は進路に関する情報を集めて提供するから、貴方達は心おきなく勉強に専念して下さい」という訳だ。
暁と惇の会話を遠目で見ていたみくは、皮肉混じりに惇への羨望を級友に呈する。
「公立に落ちても専門学校に行けると思って……お気楽な人ね」
彼等の地元には、公立高校は修学館以外に3校あった。修学館に次ぐ進学校、商業高校、農工高校が市内に点在していた。が、児童数減少を背景にこれら3校が統廃合され、総合高校高校として生まれ変わった。その第一期生になる筈だったのが、惇である。修学館も、博文達が卒業する時には定時制が分離独立する事が決まっている。
決してもてるタイプではない暁と惇に、みくは好感を持てなかった。

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