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Jumpin' Five 50

[378]  曽根菜由美  2006-12-21投稿
 年内最後の練習が行われた。
「畑中くん、どうにかしねーとならねぇな。」
岩田さんがセッティングをしながら、ぼそっとこう言った。私もそう思う。もう、このところ、彼の姿を見ていない。
 あんまり、放っとらかしにしておくと、またやめられてしまう。そんな気がしていた。職業柄、そういうことには敏感なのだ。常に、やめるやめないの瀬戸際をたどっている生徒と直面している私にとっては、岩田さんの言うとおり、他人事としてとらえられないのだ。
 5人いればアンサンブルはできる。5人目のプレーヤーは、別に畑中さんでなくたって良い。だけど…私は、畑中さんとアンサンブルをしなければダメだと思う。そうして、畑中さんを救っていかないと、彼は今度こそやめてしまう。
「電話して、話してみたんだけどな…。」
岩田さんは、こうつぶやいた。えらいっっ、ちゃんと動いているんだ。岩田さんは。でも、岩田さんの語尾は、良い結果を告げるものでは決してない。
「オレさぁ、畑中くんとは結構長いつきあいだもんで、今までも、ぐちゃぐちゃ言ってきたんだよ。だから、彼には相当嫌われてると思うだよ。
 で、曽根さんにお願いがあるんだけど、…なんとか説得して来るように言ってくれるかな?」
来た。たしかに、あのとき岩田さんの自宅で練習したとき、彼の心を開いたのは、私が余計な話をしたからだが、それはたまたまで、私に畑中さんを説得する自信なんて、これっぽっちもない。
 でも、何かやってみないと…。黙って見過ごすだけでは、先に進まない。もう日が迫っている。アンコンは近いけど…その日に間に合わなくてもよい。とにかく、練習に参加することだけでも…。
 楽器のセッティングが終わって、アンサンブルの練習を始めた。4人でやる〈Jumpin' Five〉は、決して〈Jumpin' Four〉とも呼べない、間の抜けた感じだ。メンバーのやる気も失せる。〈トルコ行進曲〉に至っては、旋律が抜けるところがある。4人用に編曲する暇など、とってもない。
 やはり、私が畑中さんを説得するしかないのか…。

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