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航宙機動部隊38

[965]  まっかつ  2007-01-12投稿
銀河元号二一八八年・新年期一日(元旦)星系合衆国・最外縁征討軍・連合艦隊総旗艦《D・カーネギー》号…
新年を祝う政治的脚色過剰なセレモニーなんかが、少年の肌に合う筈もなく、リクは複数の職務放棄を半ば喜んで冒して、足早に会場を離れた。
彼が向かったのは、分厚い展望壁が見渡す限り続く、テラス型遊歩道区画だった。
総面遍在型ホロ・音響展開システムや、走り回る四輪サーバントマシーンのお陰で、テラス向けにしつらえられたベンチ群に寛ぐ人々に、一通りの情報と娯楽は手に入る様になっていた。
リクはベンチに座らず、展望壁のすぐ前に立ち、外に広がる光景を眺めていた。
こうして見ると、中々の好男児だ。
身長は一六0半ばと、船乗りの家系を反映してやや小柄だったが、血色の良い肌に、艶栄えの豊かな黒髪、整った造形の顔立ちは、繊細で女性的ですらあり、それでいて、体付きは筋骨逞しい美丈夫振りで、そのコントラストが梟雄をすら思わせる、名状し難い雰囲気を放っていた。
見に纏うのは、古地球時代からの伝統のある、言わば『胡服』だった。
鮮やかな青色の生地に上身を包んだ軍人然としたその姿は、颯爽としており、早くも複数の婦人からの注目と好意を得るのに成功していたが、それが少年の警戒に満ちた無関心の砦を陥落させる事にはなりようがなかった。
手首まで届く袖口と、膝上に至る長い裾、首周り一帯は、真紅に縁取られていて、彼が官職保有者である事を示していた。
これと純白のスボンの組み合わせは、戦闘を前提とした航宙遊牧・狩猟民族共通の服装で、少年もその祖国も、中央域文明圏からすればアウトサイダーである、紛れもない証左であった。
大き目の両眼は、暗く冷たい虚空を圧して埋め尽す、友軍の艦列に注ぎ込まれていた。
合衆国のシンボルカラーに合わせて、全ての船体が白色に外面偏光され、それが至る所カラフルなイルミネーションを点滅さして満艦飾となっている。
正しく、銀河団とみまがうばかりのロマンティックな眺め。
愛の語らいには最適の場所だったろう。
しかし、独りそれを堪能する少年の口を漏れのは、実に意外な言葉だった。
『オモチャの…兵隊だな』
彼は、人工の白夜に群れ遊ぶ、数万の蛍達に真剣な注視を与えていた訳ではなかったのだ。

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