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航宙機動部隊第三章・3

[456]  まっかつ  2007-06-13投稿
旅客航宙機群の先頭を行く一番機にテンペ=ホイフェ=クダグニンは居た。
窓側に座る彼女の眼下一面には、シテ市街が広がる。
そして、今だ白煙の止まないオストレスタジアムの痛々しい姿もその中に認められた。
次第に小さくなるその光景を眺めながら、自身の表情に厚く雲がかかるのに少女は気付かなかった。
『心配は要らんよ』
不意に隣の座席から、何かを見透かし切った様な声がかかって、テンペはその主に顔を向けた。
彼女に沈欝を加算する人の形をした一因だった。
『私が居る限りこの機は狙われない―太子党もそこまでバカではないからな』
星間軌道公社から派遣された特務、エンリケは、テロを起こした勢力を早々と断定しているみたいだった。
余り経歴の判明しない謎に満ちた男だったが、ユニバーサルエリートに相応しい実力と、それに見合った尊大さに満ちた性格の持ち主なのは、確かな様だった。
『あの…まだやったのは誰かとは…』
『ほう、君はこれだけの事が出来る存在が他にいると本気で信じているのかね?』
テンペの躊躇いがちな反駁に、彼は一瞥も与えなかった。
だが、それは単なる盲信や偏見から来た持論ではないみたいだった。
『帝国やパレオス内部の過激派の仕業だとしたら、真っ先に狙うのは政府要人クラスだよ。こんな馬鹿げたジェノサイドを目の当たりにして、一番焦っているのは寧ろ彼等の方だろうな』
座席で腕を組みながらそう説明を口にするエンリケにも一理有る事を、テンペは認めなければならなかった。
連合艦隊を足留めしたければ、一握りの頭脳に脅威を与えた方が効果的なのは間違いない。
『だが、君の提案もこれでご破算だ。残念だったな』
話し方のきつさに少なからぬショックを受けたテンペは、歪み勝ちな瞳で前を向いたままの公社特務の横顔を見たが、どうやら相手が伝えたいのは必ずしも悪意ではない様だった。
『私も残念だよ―もう少し細部を検討してみるだけの価値は有ったと思っていたんだが―何にしても、これで後戻りは出来なくなった』
そう、最外縁征討軍に残された選択肢は大幅に削られたのだ。
テンペは少しほっとしたが、本質的な居心地の悪さ自体は少しも減じた分けでは無かった。
そして、恐らく平常からこんな気不味いシチュエーションに耐えて来たのであろう彼女の同胞に少しだけ尊敬を覚えるのだった。

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