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MURASAME

[506]  あいじ  2007-06-29投稿

まだ、この世界に世命が生まれる前…
二柱の神が存在していた。
一人は男のようであり…
一人は女のようであった。

やがて、神達は一つの世界に生命を創った。たが、創られた生命達は神に牙をむいた。男の神は生命の『心』を二つに割り、新しい命を生み出した。
それが…『人』。そして『妖』の誕生だった。だが…

女の神はそれを許さなかった。


どこかのハイウェイだろうか。辺りには街灯もなく、暗闇と静寂が全てを支配していた。
だが、突然現れたモノにより静寂が破られた。それは轟音を辺りに響かせながら、ハイウェイを駆けた。それはまるで車輪のような形をしており、全体が業火に包まれ燃えていた。そしてその中央で醜悪な姿をした化物が車輪をまわしている…、その表情は凄まじく、憎しみに溢れていた。
その後ろから風を切り、オートバイが駆けてきた。まだ若い男のようだったが、暗闇とヘルメットで顔がわからない。
「火車か…殆ど曲妖化してる…仕方がないか…」
彼は不意にオートバイから飛び降りた。主を失ったバイクはそのまま火車に突っ込んでいった。
火車が体勢を崩すが車輪を回し、バイクをはじき出した。
「曲妖確認…処分決行」
彼はベルトに掛けられた細筒を組み合わせ、先端に刃を組み付けると、一又の槍を組み立てた。
「清姫!」
彼は叫ぶと火車の体に槍を突いた。火車は車輪を回し、その刃を受け止めた。
彼は清姫をしならせ刃をドリルのように回転させた。やがて、刃の回転が車輪を上回り、火車の体を車輪ごと穿った。
「蛇貫転!」
火車の体が弾け、その体が粉々に粉砕された。
彼は清姫を元に戻し、一息ついた。彼の目にはうっすらと涙が浮かんでいる。
「……曲妖化したら、人にも妖にも害になってしまう…可哀相だけど…処分しなきゃ…」
雲が晴れ、月光が彼を照らした。彼は懐からサングラスを取り出し、着けた。

彼の名前は氷川竜助。彼もまた、夜を歩く者である。

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