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MURASAME

[877]  あいじ  2007-07-10投稿
ぬえ?

可王京介による鬼門襲撃から一年が経過していた。
その影響か、日本各地で曲妖が大量に発生し妖庁はその対策に急いでいた。
可王の行方は依然として知れないままだった…


竜助は本部の応接室に通された。いつもながら落ち着かない雰囲気が彼の緊張を煽っていた。
不意にドアが開き、険しい顔の男が入ってきた。竜助はサングラス越しに男の表情を見つめた。
「…どうも、ご無沙汰してます…村神さん…」
竜助が男に向かって一礼する。男は相変わらず険しい顔で竜助の向かい側に腰を下ろした。
彼の名前は村神春紀。妖庁の本部役人で蔵王丸の直属の部下にあたる。竜助にとっては唯一の上司だった。
「まず聞こう。お前はぬえを知っているか?」
「ぬえ…?」
ぬえとは頭は猿、体は狸、尾は蛇、手足は虎というまさにいるかいないかわからないような妖怪である。しかし、日本には昔から伝えられており、説話『ぬえ退治』では仁平(1151〜1154年)の頃、天皇の御殿にやってくる黒雲に天皇が怯えられる為、黒雲退治を源三位頼政に命じたところ、頼政は雲の中に怪しい姿を見つけ、矢を射ると前記の化け物が落ちてきた。これをうつぼ船に入れ、西海に流したところ、芦屋の浦に流れつき、浦人達はもう二度と災いが起こらないように塚を築いて封じ込めたという。
(余談だがこのぬえ塚は実際に存在する。兵庫県芦屋公園内にあるので興味のある方は是非)


「あの日本のグリフォンみたいな、あのぬえですか?」
竜助の言葉に村神が頷いた。
「最近の事だ。この帝都に出没しているらしい。今のところ被害らしい被害はでていないが…」
「曲妖の可能性は低そうですね」
「だが、ことが起きてからでは遅い。お前はぬえを見つけ出し、保護、あるいは処分しろ」
「わかりました」
竜助が静かに立ち上り、応接室から出ようとした。
「前から気になっていたが…何故室内でもサングラスを外さない?」
村神の問いに竜助は答えなかった。

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